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旅好きシニアソムリエが語る! 知られざる中国ワイン事情【後編】

2021.4.15

近年、海外メディアでも多く取り上げられている中国ワイン。日本のワイン専門誌やWebサイトでも取り上げられるようになりました。

基本的な、中国のワイン造りの歴史や産地などは世界が注目!【中国ワイン】の知っておくべき歴史と産地をご覧いただくとして、今回は、もう一歩深い、中国のワイン事情をお届けします。

渡航歴12回を数える大の中国好き、加えてBELT&ROAD WINE AND SPIRIT COMPETITION(中国のワイン及びスピリッツの国際的なコンクール)の審査員も務めるワインのプロ、林やよいさんにたっぷりとお話を伺いました。

<後編>は注目する産地から国内需要拡大のカギまでご紹介します。

■旅好きシニアソムリエが語る!知られざる中国ワイン事情<前編>は こちら

ワイン産地の確立から発展までの過程が見られる面白さ

―中国ワインに関する情報は、まだまだ日本のWebサイトには多くありませんが、その中でも、押さえておくべき産地の筆頭で上がってくるのは山東(サントウ)省の煙台(エンタイ)というのが多いような気がします。林さんが注目する産地はどこですか? やはり寧夏(ネイカ)でしょうか?

林やよいさん(以下、敬称略)
うーん…いろいろあると思いますが、
確かに寧夏は、高級ワインの産地として確立され、成熟していって、どう世界に認められていくのか、その過程が見られる、というのが面白いし、注目していきたい産地ではあります

雲南(ウンナン)は、歴史もあるし、環境もいいですね。超高級ワインを造るのに向いている産地ではあるけれど、ブドウ畑にできる土地が少ないので、地理的条件を考えるとこれ以上畑が広がる可能性は少ないかなと。

―やはり、雲南は山岳地帯なんでしょうか?


めちゃめちゃ山岳地帯!東チベットと呼ばれ、標高3,000mを軽く超える地域です。伝説の理想郷「シャングリ・ラ」があり、バックパッカーの聖地でもあります(笑)。そこにブドウ畑を拡大するのはちょっと難しいし、いろいろ生産コストもかかる。あと山岳地帯は物流にもコストがかかります。

―まさに、秘境中の秘境って感じですね。それはそれで、高級ワインの良いブランディングにもなりそう(笑)

寧夏が注目産地であるワケ

photo:寧夏のブドウ畑。遠くに見えるのが賀蘭山。


その点、寧夏が優れている点は、平地が多いところ。山麓に、あれだけ広い平地が広がる産地は、世界を見ても他にない

【POINT】
賀蘭山という、“山”と呼ぶけれど、どちらかというと“山脈”が南北に走り、その距離はコートドールの北部からマコンぐらいの距離とか。東側の麓に「中国のナパ・ヴァレー」とも呼ばれるブドウ畑が広がっている。その東側には平野が広がり、さらに東側には黄河が流れている。賀蘭山西側はゴビ砂漠。


寧夏回族自治区は、その名の通り、回族(イスラム教徒)が多く住んでいる地域です。
彼らは、お酒は造れないので、ブドウ栽培を担っています。長年栽培をされてきて“ベテランさん”も多くなり、ワイナリーの人たちも「彼らに任せておけば安心」と言っています。うまく分業ができている感じですね。

さらに寧夏省は、中国で唯一省単位のワイン協会が設立されており、ボルドーのように生産者に対する格付けも行われています。この格付けも厳格に、すべてのワイナリーが5級からスタートして、2年ごとに見直しを行っています。これも、寧夏ワインのブランディングの一環です。

中国の国内需要を増やすキーポイントは?

―中国のワイン生産量が世界第7位と知った時は驚きました。広大な土地とブドウ栽培に適した自然環境、労働力の豊富さ、あと、ワイン業参入規制において、法人企業では年間1,000kl、シャトーワイナリーでも年間75klの生産能力がないと参入できない(ちなみに日本では年間6kl、ワイン特区では2kl)、というのが要因として考えられそうですね。


世界1位になれるポテンシャルはあるでしょう。ただ、低価格帯のワインをたくさん造るのか、高級ワインをメインで造っていくのか、今後の方針次第かと思いますが。

あと、国内需要の拡大をどうするかですね。最近徐々に増えてきているようではありますが、女性はお酒を飲む習慣があまりない。さらに、想像以上に健康志向が高い国民性。…そういうこともあって、(ポリフェノールの健康効果で)白ワインよりも赤ワイン好きが多いのかもしれません。

―さすが!漢方の国ですね(笑)


もう「血液サラサラ」というワードも大好き(笑)。内モンゴル自治区のワイナリーが造る“玉ねぎワイン”なるものがあって、これが意外と人気で、よく売れてるみたいですよ。試飲させてもらいましたが、玉ねぎ、というよりはエシャロットの香りがある赤ワインでした(笑)

中国ワインの輸出が伸びているワケ


林 やよい
JSA認定シニアソムリエ、WSET Level3、CPA認定チーズプロフェッショナル。ワインテイスター・審査員として国内外のワイン審査会や雑誌のテイスティング企画などに招聘され、参加多数。旅をライフワークとし、特に最近はアジア各地を中心に、バックパッカーしている。夢は、中国から陸路でワイン畑を訪ねながらのユーラシア大陸横断。他のソムリエがあまり行かないワイン産地への訪問を得意とする。

―国内需要の拡大の鍵は、「女性の飲酒」と「健康志向」がポイントになりそうですね。ところで、輸出に関してはどうなんでしょう?


中国ワインの輸出量が多いのは、世界中に華僑や華人がいるから、というのが一番の要因だと思います。チャイナタウンがある国には、特に多く輸出していますね。ただ、まだ国内に大きな市場があるので、国内向けの方をより意識して生産している産地も多いです。

今までは、白酒などアルコール度数の高いお酒を飲む世代が、飲酒のメイン世代でしたが、彼らよりも若い世代が飲むものは、どんどん低アルコール化している感じです。ワインを造っていない地域には、ブルワリーが結構あったり、今後、醸造酒をはじめ、ライトなお酒はさらに伸びそうな感じです。

中国ワインは高価?

―MADE IN CHINAって安価なイメージがありますが、ワインに関してはそうでもない印象です。


ワイン
生産者は、造ったワインを販売する際、多額の税金を国に納めなければいけない、というのが一番大きな理由かと思います。また、ブドウ栽培やワイン醸造に携わる賃金も、ちゃんと最低賃金が決まっていたはずです。

彼らは、ちゃんとしたものを造りたいという意識が非常に高い。彼らの、決まったことを真面目に黙々とやれる国民性が、それを可能にしますし、そこに対して人的コストを抑えて低価格のワインを造っても意味がない。彼らにとってワイン造りは産業であり、雇用創出と所得獲得を通して、地方の経済発展が目的でもあるので。

―なるほど。中国だけではないのかもしれませんが、ワイン産業は奥が深いですね。しかし中国は、これからさらに大きく発展する可能性がある分、注目していきたい産地ですね。今回は貴重なお話をありがとうございました。

今後、ますます目が離せない中国ワイン

今回は、中国ワインを通して、飲み物としてのワインだけではなく、ワイン造りの“産業”という視点でも大きな気付きを得ることができました。

近年の中国の経済発展はすさまじいものがありますが、その中の一つにワイン産業もあることを、今回改めて感じました。可能性を秘めた広大な土地、十分な労働人口という、資源の豊富さがそのバックグラウンドにあることは間違いありません。

加えて、国家にしっかりと管理された産業計画は、今まで産業の乏しかった内陸地域の、希望にもなっているように感じました。先述した寧夏の生産者格付けは、ワインツーリズムを行うことが必須項目になっているそうです。ワイン産業と観光産業で、地域を盛り上げようとしているのです。

サステナブルでフェアトレードも意識しながら、これからも、中国を始め、世界中のおいしいワインを楽しみたいと思います。機会があれば、“玉ねぎワイン”もぜひ試してみたいですね(笑)

■旅好きシニアソムリエが語る!知られざる中国ワイン事情<前編>は こちら

■基本的な中国のワイン造りの歴史や産地などについて知りたい方は、世界が注目!【中国ワイン】の知っておくべき歴史と産地 をご覧ください。

 

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wine@MAGAZINE編集部
すべてのワイン好きのために、東奔西走!ワイン初心者のお悩みを解決したり、ワイン通のためのお役立ち情報を取材したり…と、ワインの世界を日々探究中。plus wine, precious life!
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