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【キャンティ・クラシコ】10のQ&Aで理解する基本とトレンド

2021.4.19

ワイン好きでなくても「キャンティ」という名前は聞いたことがあるかもしれません。1990年代に起こった“イタ飯ブーム”を知っている方なら、間違いなし!イタリアンの流行とともに、キャンティと呼ばれる赤ワインも一気に日本に広まりました。

それまで「ワインと言えばちょっと敷居が高いフランス料理」というイメージがあった中、陽気なイメージを伴う本格イタリアンの登場は、ワインシーンにおいても大きな出来事だったわけです。

一方「キャンティ=安いワイン」のイメージがついてしまったのも事実。実は、世界でも長い歴史の中で似たようなことが起き、1932年に呼称として登場したのが「キャンティ・クラシコ」なのです。

そこで今回は、初心者にも知ってほしい“基本のキ”からトレンドにまつわる最新情報まで、10のQ&Aを通じて紹介。これを読めば、あなたもキャンティ・クラシコ通になれるはず!

キャンティ・クラシコ(Chianti Classico)は、イタリア語の発音に近い表記をすると「キアンティ・クラッシコ」となり、この表記を採用することが増えてきました。この記事では、一般的な認知度の高さから、基本的に「キャンティ・クラシコ」と表記しています。

Q:キャンティ・クラシコは、どこで造られているの? 

イタリア中部にあるトスカーナ州。その中心にあるフィレンツェとシエナの間に広がるエリアが、キャンティ・クラシコの生産地になります。

最近の市町村合併により現在の村数は8つで、総面積はおよそ7万ヘクタール。東京23区と同じくらいの広さがあるこの指定地域は「コムーネ・キャンティ・クラシコ」と呼ばれ、キャンティ・クラシコを生産するワイナリーは515軒あります(2021年3月現在)。

キャンティ・クラシコは、ブドウ栽培からワインのボトリング(瓶詰め)まで、すべての工程を、指定地域内で行わなければなりません。

Q:テロワールの特徴は?どんな土地なの? 

7万ヘクタールのうち、ブドウ畑が占める割合は実は7分の1だけ。しかも、キャンティ・クラシコの指定畑となると、わずか7,200ヘクタールと10分の1程度に限られます。

他のワイン銘醸地は、エリアのほとんどがブドウ畑ですが、このコムーネ・キャンティ・クラシコは森林が多く、糸杉並木やオリーブ畑が広がる絵葉書のような丘陵地帯。ここは上質なオリーブオイルが作られる名産地でもあり、キャンティ・クラシコはオリーブオイルの原産地呼称(D.O.P.)でもあります。

まさにこの多様性が、類まれなワインの特性を生んでいると言えそうです。

エリアの東側を貫くキアンティ山脈、そして、西側の山脈とその中央の山脈でHの文字のような状態になっているのがポイント。ただし、標高は500~650mとさほど高くなく、まさに“丘陵地帯”と言った感じです。

土壌は、太古の海から隆起した層が基本となっていて、これまた多種多様。代表的な土壌としては、以下のようなものがあります。

アルべレーゼ(Alberese)
泥灰土の岩石土壌。エレガントさやミネラル感をワインにもたらす。

ガレストロ(Galestro)
石灰のある粘土と泥土の土壌で、水はけはよい。

マシーニョ・トスカーノ(Macigno Toscano del Chianti)
砂岩の土壌で、石灰分は含まない。

アルジッレ(Argille)
粘土質土壌で、パワフルでタンニンがしっかりしたワインをもたらす。

Chianti Classico 公式YouTube(英語)

 

Q:原料はどんなブドウ?

キャンティ・クラシコに使われるブドウといえば、サンジョヴェーゼイタリアのブドウ生産量No.1の品種で、中部イタリアを代表する黒ブドウです。

80%以上はサンジョヴェーゼを使うことが鉄則。補助品種として20%までなら他の黒ブドウを使うことができますが、白ブドウを混ぜることは2006年以降NGとなっています。

補助品種の黒ブドウは、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーといった世界的に主流な品種も対象です。

イタリアならではの品種では、トスカーナ州原産で円みのある果実味が特徴のカナイオーロ・ネーロの他、チリエジオーロ、コロリーノ、フォリアトンダ、マルヴァジア・ネーラ、マンモロ、プニテッロといったものがあります。

Q:香りや味わいの特徴は?相性の良い料理も知りたい。

キャンティ・クラシコと一口に言っても、実はバラエティがあるのですが、大まかな特徴としては以下のようなものが挙げられるでしょう。

色:それほど濃くないルビー色
香り:スミレやチェリーのアロマ
味わい:豊かな酸としっかりめのタンニン(渋み)

果実味とともに渋みがあるけれど、酸があるので、色々な料理との相性がよく、食べ物と合わせやすい“フードフレンドリー”なワインと呼ばれます。

相性の良い料理で言えば、同郷フィレンツェの名物である骨付き肉の炭火焼、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナが代表的ではありますが、酸があるおかげで、肉じゃがや煮物など、醤油ベースの和食にも意外とよく合います。

■ワインと料理の相性について詳しく知りたい方は、みんなが言う【マリアージュ】って何?ペアリングとどう違う?3原則&定番も一挙紹介!をぜひ参照してください。

少し余談となりますが、キャンティ・クラシコの指定地域内では、昔ながらのキャンティ・クラシコとはまた別の個性をもった味わいのワインも造られています。

スーパータスカンと呼ばれるワイン、聞いたことありますか?

“イタリアワイン・ルネッサンス”と呼ばれる1970年代から始まったモダンなワイン造りで、キャンティ・クラシコ地区の生産者が、規定にとらわれない自由な発想で生み出したボルドースタイルのワインのことです。

濃醇で飲みごたえのある赤ワインで、“スーパータスカン”(トスカーナの超越したワイン)と呼ばれ、世界的にも人気となりました。

Q:黒い雄鶏のマークが意味するものは?

キャンティ・クラシコのワインのボトルの首部分またはバックラベルには、必ず黒い雄鶏のイラストが描かれています。

ガッロ・ネーロ(黒い雄鶏)は、キャンティ・クラシコ独自のシンボルマーク。1924年にイタリア最古の原産地呼称として元来のキャンティが誕生した時に決定されたシンボルマークで、現在ではキャンティ・クラシコD.O.C.G.(保証付原産地統制名称ワイン)のワインの目印となっています。

Q:なぜキャンティ・クラシコに「黒い雄鶏」が描かれているの?

photo: Sailko, CC BY 3.0 < https://creativecommons.org/licenses/by/3.0 >, via Wikimedia Commons

ミケランジェロの弟子でもあった画家、ジョルジョ・ヴァザーリの絵画に「Allegoria del Chianti(キアンティの寓話)」というものがあります。絵をよく見ると、左下にガッロ・ネーロ(黒い雄鶏)が描かれています。キャンティのシンボルとして、黒い雄鶏が描かれているわけですが、それはこんな伝説に由来しています。

時は、中世。フィレンツェ共和国とシエナ共和国は長い期間、中間にあるキャンティの領土を巡って争いが絶えませんでした。

そこで争いに終止符を打つべく、ある試みを採用。それは、早朝に雄鶏が鳴いたら双方の騎士がそれぞれの拠点から出発し、出会ったところを境界線として定めるというものでした。

Chianti Classico公式 YouTube(英語)

フィレンツェ軍は黒い雄鶏を選び、わざとエサをやらずに暗い小屋に閉じ込め、夜中に小屋から放ちました。するとストレスからか、黒い雄鶏はまだ夜中なのに大きな声で鳴き、騎士は早々にシエナに向かって出発。

一方、シエナ軍は白い雄鶏を選び、重要な役割を担うその鶏をきらびやかに飾り立て、のんびりと夜を過ごさせました。白い雄鶏はいつも通り夜明けに鳴き、それに合わせてシエナの騎士は出発しましたが、なんとわずか12kmほど進んだところで、フィレンツェ軍の騎士と遭遇。

そこが境界線となり、キャンティのほぼすべてが当時、フィレンツェ共和国の支配下となった…という逸話です。

Q:キャンティとキャンティ・クラシコはどう違うの?

キャンティのワイン人気が広まるにつれ、本来のキャンティ地区以外でも「キャンティ」を名乗るワインが造られるようになり、品質が異なるワインが出回る事態となったことを受けて「キャンティ・クラシコ」が誕生したという経緯は、冒頭でもお伝えしましたが、「キャンティ=低品質、キャンティ・クラシコ=高品質」という認識は間違いです。

いずれも現在はそれぞれに原産地呼称制度の最高位であるD.O.C.G.を冠し、キャンティもキャンティ・クラシコとは異なる特徴を掲げ、上質で個性あるワインがたくさん造られています。主な違いとしては、次のような特徴が挙げられます。

キャンティD.O.C.G.の主な特徴

・サンジョヴェーゼを70%以上使用。10%以下ならば、白ブドウのブレンドも可能。
・トスカーナ全州が対象地域で、キャンティ地方以外で造られるものもある。
・軽い飲み口のものが多い。

Q:キャンティ・クラシコの中にも3つの階級があるってホント?

キャンティ・クラシコも他の銘醸ワインと同様に、熟成やアルコール度数などを基準とした3種の区分があります。“キャンティD.O.C.G.との違い”でも述べたように、この区分も単純な優劣を示すものでもないということをまず理解した上で、3種の区分とそれぞれの違いを学びましょう。

アンナータ(Annata)

・最低熟成期間:12カ月
・アルコール度数:12%以上
・1年で飲める軽やかな魅力があり、日々の食卓で気軽に楽しめる

リゼルヴァ(Riserva)

・最低熟成期間:24カ月(瓶内熟成3カ月を含む)
・アルコール度数:12.5%以上
・熟成感のある香りと味わい

グラン・セレツィオーネ(Gran Selezione)

・自社畑のブドウのみを使用(フランスワインで言う“ドメーヌもの”)
・単一畑または厳選された極上のブドウを使用
・最低熟成期間:30カ月(瓶内熟成3カ月を含む)
・アルコール度数:13%以上
・2014年に誕生した区分
・それぞれのワイナリーのテロワールの個性を最大限に表現
・ワイナリー数:144(全生産者の6%程度)

醸造技術の進歩や地球温暖化の影響、また現代人の嗜好の変化もあり、熟成年数やアルコール度数だけがワインの価値を決めるわけではありません。

「いつ、誰と、どんな場所で飲むのか」が重要なカギ。気の置けない仲間とワイワイ楽しくテーブルを囲むなら、長期熟成のグラン・セレツィオーネよりも1年ほどで飲み頃を迎えるアンナータの方がおすすめ!といった具合です。

Q:同じ階級区分のワインなら、味わいも均一なの?

熟成年数やアルコール度数だけで、ワインの味わいが決まるわけではありませんし、同じ階級区分であっても、もちろん味わいにはそれぞれに個性があります

また、コムーネ・キャンティ・クラシコには多様性に富んだテロワールがあるということは、初めの方でお伝えした通り。

世界のワイン銘醸地の微細な地図を制作することで、それぞれのテロワールがもたらすワインの魅力を伝え続けている“マップマン”こと、アレッサンドロ・マズナゲッティさんは「同じキャンティ・クラシコでも、地形などのテロワールを紐解けば、村や畑ごとに異なる特徴が見出せる」と語ります。

また、イタリアワインに詳しい人は「“パンツァーノ産”のキャンティ・クラシコが素晴らしい」という話をしたりします。コンカ・ドーロ(金の貝殻)と呼ばれる円形劇場のような形状をしたパンツァーノ(Panzano)の盆地は、暖かく乾燥した特別なミクロクリマ(微気候)があるとのことで、生産者やインポーターは、パンツァーノを独立した一つのエリアのように扱うことがあるのですが、行政区としては「グレーヴェ・イン・キアンティ(Greve in Chianti)」という村の一番南に位置しています。

参考までに、コムーネ・キャンティ・クラシコの8つの村の地図もここで紹介しておきましょう。

■東側のキアンティ山脈に沿った3つの村

  1. グレーヴェ・イン・キアンティ(Greve in Chianti)
  2. ラッダ・イン・キアンティ(Radda in Chianti)
  3. ガイオーレ・イン・キアンティ(Gaiole in Chianti)

■西側の山脈がある村

  1. カステリーナ・イン・キアンティ(Castelina in Chianti)

■H字型の山脈の南側にある村

  1. カステルヌオーヴォ・ベラルデンガ(Castelnuovo Berardenga)

■H字型の山脈の北側にある3つの村

  1. サン・カシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーザ(San Casciano in Val di Pesa)
  2. バルベリーノ・タヴァルネッレ(Barberino Tavarnelle)
  3. ポッジボンシ(Poggibonsi)

※村名に「in Chianti」がつく4つの村は、“Chianti of Chianti(元来からあるキアンティ)”と呼ばれます。

キャンティ・クラシコは、指定地域内でもテロワールの多様性があり、それぞれに特徴あるワインが造られるため、例えば、フランスのボルドーのような村名での原産地呼称の道を拓くことも、今後ありえそう。

伝統を重んじながら、進化も遂げようとしているキャンティ・クラシコは、やはりワイン好きなら要注目の生産地と言えるでしょう。

Q:サステナブルなどの動向は、キャンティ・クラシコにもあるの?

森林が65%を占め、ブドウ畑だけでなく、上質なオイルを生み出すオリーブの畑などもあり、単一耕作の方がめずらしいというキャンティ・クラシコの指定地域は、そもそも生物多様性(biodiversity)に富んでいます。

キアンティ・クラッシコ協会の情報によると、ブドウ畑の70%は何かしらのサステナビリティに取り組んでいて、40%以上はビオ(有機栽培)とのこと。元来の生産環境に加えて、エシカルな視点でもさらにサステナブルなワイン造りのトレンドは進行しているようです。

最新情報もお伝えしましょう。2020年のヴィンテージ状況については、キアンティ・クラッシコ協会会長のジョヴァンニ・マネッティさんが次のように語っています。

「2020年はワインの展示会や海外出張がなかった分、生産者の多くがブドウ畑で充実した時間を過ごしました。また、その収穫は概ね満足できるものでした。

気候は、かなり涼しい春の後、長く暑い夏を迎えました。昼夜の気温変化は良く(7〜8月の最低気温は適度)、完璧なブドウの成熟が可能な環境だったと言えます。

もうひとつ大切なことは6月と9月の雨により、水不足に陥らなかったことです。これらの気候条件は、素晴らしいストラクチャーとバランスを備える、キャンティ・クラシコD.O.C.G.のワイン造りにとって欠かせないものです。

生産量に関しては、現段階の試算では2019年と比較して10%程度の減少が見込まれますが、その要因は主に4月初旬に夜間の気温が低かったためにブドウのつぼみの生育に影響したことによる自然減少と考えられます。」

広く長く愛されるキャンティ・クラシコ。編集部おすすめの1本!

キャンティ・クラシコの“基本のキ”から最新トレンド情報に至るまで、10のQ&Aを通じてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

最後に、編集部メンバーがおすすめするキャンティ・クラシコを1本ご紹介します。

1986年に最初の畑を購入して創業した「トラッチャ・ディ・プレズーラ」。現在は35ヘクタールの自社畑を所有しています。当たり年の2008年のキャンティ・クラシコ・リゼルヴァは、長期熟成によるなめらかなタンニンと、オーク樽由来のバニラのような香りも感じられ、余韻も長く心地良い後味が魅力です。

2008 キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ・イル・タロッコ
産地
イタリア・トスカーナ州
品種
サンジョヴェーゼ
タイプ
ミディアムライト辛口 赤

情報・画像協力:
Consorzio Vino Chianti Classico
キアンティ・クラッシコ協会(イタリア語サイト)

Consorzio Vino Chianti Classico(キアンティ・クラッシコ協会)は1924年に設立された最初の共同事業体です。現在515の生産者が加盟しており、そのうち354が自らのブランドでワインをリリースしていて、ボトルには見紛うことなき「ガッロ・ネーロ」のトレードマークが付けられています。黒い雄鶏に象徴されるキアンティ・クラッシコ・ブランドの保護とプロモーションが同団体の使命です。

 

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佐野 嘉彦
ニューヨーク発祥のレストラン評価ガイド『ZAGAT』日本版の編集マネージャー、ワインスクールでの講師、料理通信社での勤務、チーズに特化したWebマガジンの編集長を経て、現在「sembrar(センブラール)」を屋号とし、食を中心とした情報発信を行っている。JSA認定ワインエキスパート、NPO法人チーズプロフェッショナル協会幹事、Guilde Club Japon認定コンパニョン・ド・サントュギュゾン、フランスチーズ鑑評騎士(シュヴァリエ)。
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