おいしいワインが飲める店に、おいしい料理あり。その店独自の料理のほかに、ビストロやワインバーには「定番料理」があります。
一人飲みのときでも、仲間と一緒のときでも、はたまたデートや接待で恥をかかないためにも、そんな「定番料理」のことを知っておくことは大事!さらに、このシリーズでは、その定番料理とワインがおいしいおすすめ店も併せてご紹介しています。
緊急事態宣言等が発出中は、酒類の提供中止の他、営業時間やメニュー等の変更もありますので、最新情報は各店舗にてご確認ください。
今回のテーマは腸詰め。ソーセージ、サルシッチャ、ブーダンなどいろいろあってどれも似ているけれど、その違いがわかるとワインもより一層おいしく楽しめるはずです。
この記事の目次
腸詰めのキーワードは、十字軍と塩!?
古代四大文明の時代に発祥し、中世のヨーロッパで発展したと言われている腸詰めの食文化。十字軍の遠征がきっかけとなり、肉をいかに保存し、少しでも長く、おいしく食べられるようにするかという創意工夫から製法が定着していったというのが一般的な説です。パテやリエットなど、ほかの回でも紹介してきた食肉加工品(シャルキュトリ)の一つのカテゴリーとも言えますね。
「腸詰め」にはいろいろな種類や名称があって混乱しがち。まずは立ち位置というか、用語を整理しましょう。各国の「腸詰め」という言葉を整理すると、以下のようになります。
英語:ソーセージ(sausage)
フランス語:ソシース(saucisse)、ソシソン(saucissons)
イタリア語:サルシッチャ(salsiccia)
ドイツ語:ヴルスト(Wurst)
ドイツ語以外の言葉には、ある共通点が!製造に欠かせない塩(salt, sel, sale…)を意味する言葉が語源となっています。
製法を簡単に説明すると、まずは挽肉や臓物に、塩やハーブ、香辛料を混ぜます。それをケーシングと呼ばれる羊や豚、牛の腸(今はコラーゲンやセルロースを使った人工のケーシングも使われます)に詰め、長期保存のための加工処理として、湯煮や燻煙などが行われます。生食のものもありますが、多くのものは茹でたり、焼いたりして食卓に上ります。
日本でお馴染みのフランクフルトやウインナー(“ウィーン風”の意味)は、地名と結びついたソーセージの種類の名称というわけですが、各地の地域性や物語が、ここにも見え隠れしてきそうです。次に、ワインバーやビストロなどで登場するフランスとイタリアの腸詰めをみていきましょう。
フランスは、臓物系も多くて種類も豊富
腸詰めという一般総称としては「ソシース(saucisse)」、ちょっと大きめのものは「ソシソン(saucissons)」となりますが、フランスには多種多様なものがあります。なかでも、“臓物系”がフレンチやワインバーでは定番なのです。
地域や作る人によって材料のバリエーションはありますが、臓物の腸詰めがアンドゥイユ(andouilles)。小さめのものはアンドゥイエット(andouillettes)と呼ばれます。
そして、豚の血と脂を主役に、ニンニク、タマネギ、パセリなどが混ぜられたブーダン・ノワール(boudin noir)。黒っぽい色をした腸詰めで、濃醇な赤ワインのお供に欠かせない“ブラッドソーセージ”です。一方、ブーダン・ブラン(boudin blanc)という白いブーダンは臓物系ではなく、鶏や仔牛の挽肉に卵やクリーム、トリュフなどを混ぜた“ハレの日”の腸詰めで、こちらはコク豊かな白ワインの方が合います。
ほかにも、フランスにはたくさんの腸詰めがあるのですが、ワイン好きなら知っておきたいものをさらに挙げると、シポラタ(chipolatas)があります。
粗挽の豚肉を羊腸に詰めた、庶民的な生ソーセージです。粗挽ならではのしっかりとした肉の食感があり、香辛料は控えめ。煮て良し、焼いて良しなので、フランスでは定番の一つです。
反対に、スパイシーさが魅力の個性派は、北アフリカ生まれでほかの地中海沿岸諸国でも人気のメルゲーズ(merguez)。
羊(または牛)の挽肉を「ハリッサ(アリッサ)」というアラブの香辛料(またはクミンやチリペッパー)と混ぜ合わせ、羊の腸に詰めたもので、グリルすると香ばしさをまとってエスニックさも倍増!シラーやグルナッシュといった赤ワインが飲みたくなること、間違いなしです。
サルーミとサラーメ、間違え注意!なイタリア
イタリアではシャルキュトリのことを、サルーミ(salumi)と呼びます。これも塩を意味する「サーレ(sale)」が語源。食肉加工に塩は欠かせないわけです。
「サルシッチャ(salsiccia)」は、腸詰めを意味する言葉だということはお伝えしましたが、加熱処理されていないので、現地ではソーセージと区別する場合も多くあります。ハーブや肉の種類、混ぜる比率なども各地で様々。なかには、乾燥熟成すらさせずに生肉のフレッシュさを魅力とした「サルシッチャ・フレスカ」というものもあります。
乾燥熟成させた腸詰めといえば、ソーセージの類とはまた少し異なりますが、サラーメ(salame)、つまり「サラミ」があります。先述の「サルーミ(salumi):食肉加工品全般」と混同しやすいので、イタリアでは要注意です。
豚の赤身肉に、にんにくや赤ワインなどを混ぜ、腸詰めしたものを乾燥熟成。サラミはイタリアのみならず、各国にありますので、ここではあまり深入りしませんが、微生物と時間がおいしさと個性を作り出すという点では、ワインとの共通点もたくさん。余韻が長い味わいのサラミには、やはり熟成感のある同郷の赤ワインをセレクトしたいところです
最後に、定番のイタリアの腸詰めとして忘れてはいけないのが、モルタデッラ(mortadella)。
モルタデッラは、エミリア=ロマーニャ州の州都、ボローニャの伝統的なソーセージです。ボローニャソーセージという名前で呼ばれることも多いのですが、日本で「ボローニャソーセージ」として製造されているものは、現地のものとは規定が異なるので、似て非なるものです。
モルタデッラは、イタリアンの前菜やパニーニには欠かせない一品。細かく挽いた豚肉に、さいの目にカットした豚の脂身を加え、さらにピスタチオや黒胡椒などを混ぜ込んで、ほかのソーセージよりも太いケーシングに詰めて作られます。それゆえ、ソーセージというよりは、ハムのような印象かもしれません。
腸詰めの基本と、代表的なものを紹介しましたが、少し言葉の整理が付きましたでしょうか?ここからは、おいしい腸詰めの料理とワインが実際に楽しめる5つの店をご紹介します。
緊急事態宣言等が発出中は、酒類の提供中止の他、営業時間やメニュー等の変更もありますので、最新情報は各店舗にてご確認ください。
【bistro oeuf oeuf】豚は1頭丸々仕入れ!自家製のソーセージあり
photo:店舗写真
骨太なビストロ料理を提供する隠れ家的な一軒。店名にある「oeuf oeuf(ウフウフ)」とは、フランス語の「玉子(oeuf)」のことで、“二子玉川”の駅から徒歩5分の場所にあることに由来しているのだとか。
「さつきポーク」という銘柄豚を1頭丸々仕入れていることもあり、部位ごとの豪快なロースト料理はもちろん、ハムや田舎風パテなどのシャルキュトリーも自家製。「自家製さつきポークのソーセージ!!」も当然至極、人気メニューの一つです。
ワインは、フランス産を中心に約80種類。ボルドーやブルゴーニュなどの正統派のものから、個性豊かな自然派ワインまで幅広いラインナップがあります。「色々な種類を味わっていただきたい」とのことから、グラスワインは約10種類(600円〜)を日替わりで、また、ボトルも3,300円からリーズナブルに楽しむことができます。
【SAKABA SOU -Dining・Bar-】ハンガリーの国宝“マンガリッツァ豚”のソーセージでワインを!
photo:店舗写真
東急線自由が丘駅南口より徒歩1分という駅近の隠れ家ダイニングバー。ワインレッドを基調にした落ち着きのあるラグジュアリーな空間で、まさに“大人の雰囲気”が漂うここでは、ビストロ料理とワインやカクテル・ウイスキーなどが楽しめます。
ワインは常時50種以上。フランスやイタリアはもちろん、アルゼンチン、南アフリカ、イスラエルなど世界各国のワインから、料理とのペアリングをしっかり楽しめるよう、ソムリエが厳選したものが並んでいます。
「ポルチーニのポタージュ」や「自家製ラタトゥイユのブルスケッタ」などの多彩なメニューがありますが、「マンガリッツァ豚ソーセージの3種盛合せ」をぜひ。マンガリッツァ豚は、品種改良により1833年に生み出されたハンガリー固有の希少種の豚で、2004年にはハンガリーの国宝に指定された豚肉。そのソーセージは、まさにワインにぴったりの一品です。
【トラットリア モッコ】サンジョヴェーゼ100%の赤ワインと合う!手作りサルシッチャ
photo:店舗写真
自由が丘からもう一軒。南口から徒歩3分の場所にあるこのトラットリアでは、手作りにこだわりる本格生パスタとピッツァが味わえます。また、プロジェクターとモニター2台が完備という店なので、貸切のパーティーで使いたいという時にも便利な店です。
ワインは、店主のこだわりで集めたというイタリア各地の土着品種のものも含む、多彩なラインナップ。特におすすめのワインは、クランベリーのような若々しい赤い果実味を感じる口当たりも軽く爽やかな酸とフレッシュな果実味が印象的な「フィオーレ・ディ・マッジョ」とのこと。サンジョヴェーゼ種100%の赤ワインです。
そんなおすすめワインのお供として、ぜひおすすめしたいのが「自家製サルシッチャ(ソーセージ)~マッシュポテト添え~」。こちらもシェフのこだわりの逸品で、塩のみで結着させて手作りしているという一皿です。
【中目黒グリル SLOW TABLE】ロケ地にもなる素敵な店で、めずらしい鴨のソーセージを発見
photo:店舗写真
日比谷線も乗り入れる東急東横線の中目黒駅から歩いて6分。緑溢れるテラス席もあるここは、ドラマや映画のロケ地にもなるお洒落なロケーションです。「SLOW TABLE」という店名の通り、“ゆったりとした時間”を過ごせるビストロ&カフェで、都会の喧騒を離れてちょっとリラックスできる一軒です。
グリルという文字が店名にあるように、低温でじっくりとローストした後、仕上げに藁で瞬間燻製にするという「骨付き仔羊のココット焼き」や熟成豚を使った「プレミアム餃子」などが人気ですが、そんな中ちょっとめずらしい「鴨のソーセージ」をメニューに発見!鴨肉のじんわりしたうま味は、やはりブルゴーニュの赤がぴったり。ぜひその日のおすすめをソムリエに相談してみましょう。
ちなみに、グラスワインは、スパークリングワインは800円から、スティルは赤白ともに700円から用意されています。
【ビストロ・ド・ラ・シテ】ブーダン・ノワールを、ワイン通も通う老舗ビストロで味わう
photo:店舗写真
オープンは1973年。六本木にあった「Aux Six Arbles」と2018年に統合し、もうすぐ50年を迎えようとするこの西麻布の名店は、昔のままの内装で、老舗ならではのぬくもりを肌で感じ、楽しむことができます。
“ネオ・ビストロ”と言われる軽やかなテイストも醸しだしながら、パリジャンが街角の行きつけのこじんまりとしたビストロで毎日食べているような、シェーブルチーズのサラダ、特製豚肉のテリーヌ、オニオングラタンスープ、鴨のコンフィといった定番のビストロ料理が並ぶ中、記事でも紹介した「ブーダン・ノワール」も味わうことができます。
豚の血と脂、香辛料などで作られる「ブーダン・ノワール」にぴったりの赤ワインは、ぜひマダムやスタッフに相談してセレクトしてもらいましょう。古き良き時代のパリのビストロへタイムスリップ…レアもののブルゴーニュワインも揃うこの老舗は、広尾駅から徒歩8分の場所にあります。
緊急事態宣言等が発出中は、酒類の提供中止の他、営業時間やメニュー等の変更もありますので、最新情報は各店舗にてご確認ください。