高級シャトーの有名ワインが数多くあるフランス・ボルドーですが、サステナブルであることを重要視しながら、日々革新し続けているのも大きな特徴の一つ。そんな中、2021年1月26日、新たに赤ワイン用の黒ブドウ4種と白ワイン用の白ブドウ2種が加わることが正式承認されました。
「世界に名を馳せるあの伝統産地で、どんなブドウが認定されたの!?」…このビッグニュースを詳しくお伝えします。
この記事の目次
10年以上にわたる研究から実現した認証
2021年1月26日、国立原産地名称研究所(INAO)は、ボルドー地方における赤ワイン用ブドウの新品種4種と、白ワイン用ブドウの新品種2種の使用を正式に承認。この発表は、ボルドーのワイン科学者と生産者たちが10年以上にわたって積み重ねてきた、膨大な研究を集大成させた結果の一つです。
“おいしい”だけでなく、未来を見据えて。
ボルドーでは品種の植え付けをはじめとする革新的なブドウ栽培戦略で、気候変動対策においても世界をリードし、次の時代に万全の備えをしています。その哲学と研究のもと、今回新たに承認された6種とは一体、どんなブドウ品種なのでしょうか。
“ニューフェイス”となる6種のブドウたち
新たに承認された6種のブドウは、ワイン通にとってもちょっと意外な品種やおそらく初めて知る品種ばかりだと思います。いずれも、気温上昇と生育サイクルの短縮に伴う水分ストレスにうまく適応することができる品種で、2021年からの植栽開始が予定されています。
まずは、赤ワイン用ブドウの新品種4種から見ていきましょう。
アリナルノア(Arinarnoa)
タナとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配で、安定した生産量が望めるうえ、灰色かび病に対する耐性があり、気候変動に上手く適応する品種です。
1956年にフランス国立農学研究所(INRA)により交配・開発。糖度が低く、ほどよい酸味を持つ一方で、複雑なアロマが長く続き、タンニンの渋みが特徴的で変化に富むため、構成がしっかりしたワインが出来あがります。
カステ(Castets)
歴史が古いながらも長らく忘れ去られていたボルドーの固有品種で、フランス南西部、おそらくジロンド県が原産地。灰色かび病やベト病、特にウドンコ病の被害を受けにくいため、環境的な利点が大いに期待できる品種です。熟成に適しているようで、多彩な表情を見せるワインが生まれます。
マルスラン(Marselan)
カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配品種で、1961年に、アリナルノアと同様、フランス国立農学研究所(INRA)により生み出された品種です。他の品種と一線を画す様々な特徴を持ち、高品質で多彩な表情を見せる熟成ワインを造ることができます。
晩熟タイプで、遅霜の被害を受けにくく、収穫期に関しては、ボルドーの主要品種の傾向と同様。気候変動に適応し、灰色かび病やウドンコ病に対する耐性があり、ダニによる被害も少ない品種です。
トウリガ・ナショナル (Touriga Nacional)
ポルトガル原産で、彼の地では主要となっている品種です。品質に優れ、複雑さと香り高さが特徴。しっかりした骨格があるワインができるので熟成向きです。多彩な表情を見せ、変化に富むフルボディのワインが生まれます。
つる割れ病を除くほとんどの真菌病に対して耐性を持つ長熟の品種で、遅霜の被害を受けにくいため、収穫期が遅く、気候変動にも上手く適応できます。
では、次に白ワイン用ブドウの新品種2種をご紹介します。
アルヴァリーニョ(Alvarinho)
スペイン・ガリシア地方やポルトガル北部ではお馴染みの白ブドウ品種です。一般的に暑い気候によって生じる風味の損失を補う品種として期待されています。天候不順への適応能力を持っていて、灰色かび病にも強く、平均的な糖度が期待できるうえ、アロマティックな点で際立つ特性があるので、繊細で香り良く、ほどよい酸味を持ったワインに仕上がります。
リリオリラ(Liliorila)
灰色かび病に強いバロック(フランス南西部原産)とシャルドネの交配品種で、花のような香りが特徴の芳醇で力強いワインが出来あがります。アルヴァリーニョと同じくアロマティックな品種なので、通常暑い気候が原因で起こる風味の損失を補う品種として有望視されています。
6つの新品種導入の経緯と14のボルドー基準品種
ワイン造りにおける高品質志向と革新。ボルドーの科学研究者たちは、徹底的な調査研究、実験、産学協同を通じて、持続可能(サステナブル)な未来のための基盤を築いてきています。
今回の新品種導入についても、過去10年間で52種以上にも上るブドウが厳しい査定を受け、その中から6品種が厳選されたとのことです。
「気候変動への適応において注目すべき新品種」とされた新たな6品種の植え付けは、目下のところ、地方全植栽面積の5%が上限とされていて、どの色のワインでも10%が最終ブレンドに占める割合の上限です。そのため、法の定めに則り、ボルドーワインのラベル上にこれらの品種名が記載されることはありません。
ですが今回、6つの新品種が国政レベルでの正式承認を得たことで、ボルドーの造り手たちは栽培品種をさらに多様化させ、長い歴史の中で培ってきたワインのブレンド技術を、さらに発展させることができるようになったというわけです。
ここで一旦、AOC(原産地呼称統制)の規定で以前から認可されてきた基準品種(計14種)も整理・確認しておきましょう。
6つの赤ワイン用基準品種
カベルネ・ソーヴィニヨン
カベルネ・フラン
メルロ
マルベック
カルメネール
プティ・ヴェルド
8つの白ワイン用基準品種
セミヨン
ソーヴィニヨン・ブラン
ソーヴィニヨン・グリ
ミュスカデル
コロンバール
ユニ・ブラン
メルロ・ブラン
モーザック
以上の14品種が以前から認められているわけですから、そのパレットにのっている絵の具は実に色とりどり。そこにさらに“6つの新色”が加わるというわけですから、これからのボルドーワインにますます胸が高鳴ります。
2024年ヴィンテージから新品種をブレンドしたワインが登場か?
新たな6品種の植樹は2021年の春から行われる予定なので、最初の収穫はおそらく2024年の秋。最短の可能性としては、2024年ヴィンテージから新たなブレンドワインが生まれるということになります。
もちろん、ボルドーによる気候変動対策は、ブドウ品種の選択だけではありません。栽培や醸造の面においても、毎ヴィンテージの必要に応じて最適化された多くの対策が実践されています。
ボルドーの生産者たちは、香り高く、バランスが取れ、卓越した品質のワインを消費者に提供し続けるという使命を果たすべく、常に十分な備えをし、不断の努力に励んでいるわけです。
その時代と向き合い、未来を見据えてワインを造り続ける
歴史を紐解けば、ボルドーワインが常にその進取の気風によって、時代の要請に応じ、困難をくぐり抜けてきたことがわかります。
例えば、19世紀後半のフィロキセラ禍。
台木への接ぎ木と植え替えによって、ボルドーはこの世界的危機を見事に克服しましたが、その結果としてブドウ品種の栽培比率が大きく変わりました。今日赤ワイン用ブドウとして主力のメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンは、この頃から植栽面積が増えたのです。
しかし、ブドウ品種や栽培方法が変わっても、ボルドーワインはそのアイデンティティとなる“絶対的な高品質”を保ち続けました。今回の新品種の導入や栽培方法の改善も、ボルドーに次世代の黄金期を到来させるための、大きな歩みとなることでしょう。
情報・画像提供:
ボルドーワイン委員会(CIVB)
https://www.bordeaux-wines.jp/ボルドーワイン委員会(CIVB)は1948年(8月18日付法律)に設立されました。本委員会は、ワイン生産者、ネゴシアン(取引商社)、クルティエ(仲介業者)、以上3つのボルドーワイン産業におけるグループ代表によって構成されています。
<4つのミッション>
■マーケティング: 世界を代表するブランドとして、ボルドーの市場地位を確立します。消費者とボルドーブランド間の強い絆を構築し、新たな若年層の消費者を獲得およびブランド・ロイヤリティを確保します。
■技術: 新しい知識や技術の習得、そしてボルドーワインの品質の維持に取り組み、また、環境および食品 安全に関する意識が高まる中、新たな要求にも先手を取って対応します。
■経済: 生産、市場、環境、そしてボルドーワインの国際市場における営業販売、それらに関する動向を常に 把握し、的確な理解に努めます。
■業界全体での取り組み: テロワールの保護、偽造品・模倣品対策、ワインツーリズム開発支援