2010年時点でのデータによると、世界で造られるワインの99%が、約1,500種類のブドウ品種から造られているとのこと。その中で主要なものだけピックアップしても300種類ほどあると言われています。中には特徴が類似した品種もありますが、基本的にはそれぞれちゃんと個性を持っています。
前回は、渋い赤ワインが苦手な方必読の【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋み少なめの赤ワインを選ぶにはで、渋みが少ない赤ワインを造るブドウ品種をご紹介しました。今回は逆に、「渋みがなくちゃ、赤ワインじゃない!」という方必読の、タンニン含有量が多めのブドウ品種をご紹介します。
タンニン含有量”やや高め”品種の代表①【カベルネ・ソーヴィニヨン】
“ムキムキ”と言うより、筋肉質でありながら逆三角形のシュッとした上半身を持つ水泳選手(できれば男子)。力強さだけではなくしなやかさを併せもち、水を自在に操ります。金メダルを目指してストイックに鍛え上げ、そんな時はツンツンしているように見受けられるけれど、引退する頃には人間味も出てきて、柔らかさも感じられる…そんなイメージを抱かせる品種がカベルネ・ソーヴィニヨンです。
世界一栽培されている品種。それゆえ世界一有名とも言える品種。
その理由は、味わいのバランスがとれたワインになることと、土壌への適応力が高く病害に対する耐性も強い、という比較的栽培のしやすさかと思います。
カベルネ・ソーヴィニヨンは、小粒で果皮が厚く、種も大きいブドウ。食べるブドウだったら間違いなく不人気No.1になりそうな特徴です(苦笑)。しかし、ワインを造るブドウとしては最適な特徴です。
【カベルネ・ソーヴィニヨン】香りや味わいの特徴
ブルーベリーやカシスのような濃厚な果実の香りに加えて、杉やミント、ピーマンと言った清涼感のある香りが溶け込んだワインを生み出します。
世界中で栽培される品種なので、産地によって若干香りや味わいも異なります。温暖な地域だと、ブルーベリーではなくブラックチェリーの方が近く、ミントよりもクローブのようなスパイス感が出ることもあります。
ワインの色も濃く、味わいは、果実味もありますがタンニンがしっかりと骨格を作っています。若いうちはギシギシした収斂を感じますが、それも熟成を重ねるとワインに滑らかに溶け込み、奥深い味わいに変わっていきます。
赤ワインの味わいは、渋みと酸味と果実味の3つの要素のバランス次第と言っても大げさではないでしょう。カベルネ・ソーヴィニヨンはまさに、この3要素がバランスよく感じられるワインになる代表品種です。
【カベルネ・ソーヴィニヨン】代表的な産地
8,000年の歴史のあるワイン造りのなかで、カベルネ・ソーヴィニヨンは古くから多くの人に親しまれてきた品種かと思いきや、実は、この歴史の長さから見たら比較的新しく登場した品種なんです。
17世紀、カベルネ・フラン(黒ブドウ)とソーヴィニヨン・ブラン(白ブドウ)の自然交配から生まれました。両親の名前を一字ずつ取って付けられた子どもの名前のようですね(笑)。生まれた場所はボルドー。今でもカベルネ・ソーヴィニヨンの主要産地です。
栽培面積の広さで言うと、フランス、チリ、アメリカがほぼ僅差で上位3ヶ国。次いでオーストラリア、スペイン、中国の3か国が続きます。この6か国で、世界のカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培面積の7割近くを占めます。
「ボルドー・ブレンド」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?この言葉通り、ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインはあまりありません。カベルネ・ソーヴィニヨンのほか2~3種類の品種をブレンドしたワインになります。
一方、アメリカやチリなどのニューワールドでは、ブレンドしたワインも造られますが、カベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインも多く造られます。
このように、産地によって造り方も異なるので、当然、味わいも産地によってまちまち。ですが、単一でもブレンドしても素晴らしいワインになるのがカベルネ・ソーヴィニヨンの良さでもあります。
タンニン含有量”やや高め”品種の代表②【シラー(シラーズ)】
野性味あふれる濃いキャラの肉食系男子。肉食だけどチャラチャラはしていません。ガッチリした図体はジーパンに白シャツが似合うけど、スマートにタキシードも着こなせて、知性を感じる硬派な印象。…そんなイメージを抱かせる品種がシラー(シラーズ)です。
カベルネ・ソーヴィニヨンと双璧をなす人気品種。ブドウの見た目も似ていて、小粒で果皮が厚く、色は若干青みがかっていますが濃厚な色合い。
栽培もしやすく病害にも強いところも、カベルネ・ソーヴィニヨンと近しい。さらに、単一でもブレンドでもどちらでもワインが造られるところも似ています。
若いうちから飲んでも熟成させても、異なる魅力を見せてくれる万能さがあって、2000年以降、主要産地のフランスとオーストラリア以外でも、イタリアやチリ、南アフリカなどの国でも栽培面積を増やしています。
【シラー】香りや味わいの特徴と代表的な産地
この品種は、「シラー(シラーズ)」と表記していますが、2大生産国であるフランスとオーストラリアで呼び方が異なります。
フランスでは「シラー」と呼ばれ、オーストラリアでは「シラーズ」と呼ばれますが、同一品種です。ブドウの品種では、国や地域によって呼び名が違うということが度々ありますが、前回【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋み少なめの赤ワインを選ぶにはでご紹介したピノ・ノワールも、ドイツでは「シュペート・ブルグンダー」と呼ばれるし、グルナッシュは、スペインでは「ガルナッチャ」と呼ばれるのと同様です。
ただ、フランスの“シラー”とオーストラリアの“シラーズ”は、別品種かと思いたくなるほどワインの特徴が異なるので、「近親者だけど別品種?」と思いたくなりますね。これは、産地の違いというのもありますが、造り手の志向によるところが大きいと言われています。
フランスのメイン産地はコート・デュ・ローヌ地方の北部。このエリアで造られるシラーのワインは、黒コショウのようなスパイス感ある香りが特徴的。その後にブラックチェリーやプラムのような黒っぽい果実の香りを感じます。
一方、オーストラリアのシラーズは、凝縮した果実の香りが主体的で、ローヌのシラーに比べると、同じブラックチェリーやプラムでも、より熟した果実を思わせます。スパイス感は弱く、代わりにユーカリのような清涼感ある香りも感じられます。
どちらの産地のシラー(シラーズ)でも、酸もタンニンもしっかりあります。ですがオーストラリアのシラーズの方は、果実味の方がより強く感じられるでしょう。アルコール度数の高さも相まって、シラーズ(オーストラリア)の方はパワフルと表現したくなりますが、シラー(フランス・ローヌ)の方は、エレガントと表現したくなるほど、印象が異なります。
さらにフランスのラングドック地方やプロヴァンス地方でも栽培されていますが、こちらのシラーは、生肉の血液を彷彿させるような野性味も感じられ、グルナッシュやカリニャンとブレンドされることが多いこともあって、やや果実味感のあるワインになります。オーストラリアのとフランス・ローヌのワインの中間ぐらいの凝縮感あるワインでしょう。
タンニン含有量”高め”品種の代表【ネッビオーロ】
ロマンスグレーの短髪と整えられた髭をもち、細身のジーパンを履きながらも、その足元はきちんと磨かれた紐の革靴。さっと首にかけたマフラーをたなびかせながら颯爽と歩く姿は若々しい。気難しい一面もあり、口を開けば若干とげのある言葉が飛び出すけれど、まったく悪びれない、チョイ悪ダンディ。…そんなイメージを抱かせる品種がネッビオーロです。
「ワインの王、王のワイン」と呼ばれる、バローロのブドウ品種。栽培環境を厳密に選び、条件が悪いと、ブドウの着色不足や病禍にかかりやすい。その栽培の難しさやテロワールを反映しやすいという意味から、ピノ・ノワールと比較されがちな品種です。
果皮の厚さも薄く、ワインになった時の色も淡め。そんなところもピノ・ノワールに似ています。なので、ピノ・ノワールかと思って口に含むと…その渋みの強さに飛び上がるほど驚くでしょう。ネッビオーロの種のタンニン含有量は、他の品種に比べてずば抜けて高いのです。
【ネッビオーロ】香りや味わいの特徴と代表的な産地
ワインの香りは果実で表現されることが多いですが、ネッビオーロに関しては植物のニュアンスの方を強く感じることが多いように思います。バラやスミレ、リコリス、トリュフ、干し草。果実で言うとチェリーの香りがあります。
ワインの色合いは淡く、若干オレンジがかった紫色をしており、一見涼やかな線の細い味わいを想像しますが、酸とタンニンの強さは群を抜いています。
ネッビオーロから造られる一番有名なワイン、「バローロ」は聞いたことがある人も少なからずいるかと思いますが、どこの国のワインか知らないという人が意外に多い印象。答えはイタリアです。イタリア半島の付け根、アルプス山脈の麓に近いピエモンテ州がメイン産地です。
近年、オーストラリアやアメリカなどでも栽培されつつありますが、世界の栽培面積の9割以上がイタリア北部。緯度はそれほど高いエリアではありませんが、冷涼地域。ピエモンテ州の州都が、冬季オリンピックを開催したトリノ、と聞けばその冷涼具合は想像しやすいかと思います。
タンニン含有量”高め”品種は、健康にいい?
赤ワインの“渋み”の原因は、主に種子に含まれるタンニン。赤ワインは果皮や種子を漬け込んでアルコール発酵するので、この最中にタンニンがワインに溶け出し、ワインの風味を作ります。ポリフェノールの抗酸化作用が美容や健康にいいと言われて久しいですが、タンニンは、このポリフェノールの一種です。
ただ、タンニンよりも抗酸化作用があるのがアントシアニン。アントシアニンもポリフェノールの一種で、赤ワインの色調(赤い色)をつくる成分です。主に果皮に多く含まれますが、その理由は、ブドウが成長する過程で多くの紫外線を浴びるため、これにより発生する活性酸素を消去しブドウの実の守るため。そう、もともと自分の身(実)を守るために身に着けたスキル、なんですね。
ただアントシアニンは、単体で存在するよりもタンニンと結びつくことによって、より自分の使命を自覚するらしく、抗酸化作用を発揮して、ワインの色が褪せるのを防ぎます。いつも誰かに寄り添っていないといられないアントシアニンちゃん。タンニンがいないと、他の成分に寄って行ってしまい、本来の働き(抗酸化作用)を忘れてしまうこともあるようです。
つまり、アントシアニンだけが豊富なブドウよりも、タンニンも豊富なワインの方が抗酸化作用も高い、ということ。美容と健康のためにワインを飲むのであれば、タンニン含有量の多めの、色の濃い赤ワインがおすすめです。
程よく熟成させたものであれば、収斂性(口の中がギシギシするような感覚)は穏やかになっているので、10年前くらいのヴィンテージのもので3000円前後のワインを見つけたら“買い”です。
しかし!ワインは“薬”ではなく“嗜好品”。ぜひ、自分の好みの味わいのワインで楽しんでください。「品種のハナシ」は、まだまだこれからも続きます!