自然派、ナチュラル、オーガニック、ビオ、有機、無農薬、無添加…なんとなく体に良さそうな言葉が、食品はもちろん、化粧品やアパレルの商品にも添えられています。
大量生産・大量消費の時代から、サステナブル(持続可能)で安心安全なものを求める時代へと移った今、ワインの世界でもこうした言葉が不可欠となっていて、販促の“キメ言葉”としても多用されるようになりました。
でも、似たような言葉がいろいろあって混乱しがち。すべての違いを細かく理解して、本質を見極めるは大変なので、まずは“ざっくり”と違いを把握し、全体像を掴むこと。今回はそこを目指しましょう。
そして、そんな“ナチュラル系”のワインを楽しみながら、より深く理解していくためにぴったりの5軒を併せて紹介します。まずはこの記事で基本のキを学び、お店へ!それぞれの店のソムリエや店主からは、リアルでより深い学びが得られるはずです。
この記事の目次
自然派ワインとは?まずは全体像をつかもう!
「自然派ワイン(ヴァン・ナチュール、ナチュラルワイン)」と言っても、そもそも、何が自然で何が自然ではないのか、どこまでが自然なのかという考えは人それぞれで、とても曖昧。明確な定義をすることは難しいということを、まずは理解しておきましょう。
その上で、多くの「自然派ワイン」にみられる具体的なポイントを挙げると、以下のようなものがあります。
・ブドウは手摘みで収穫
・天然酵母を使用
・茎なども入れた全房発酵や白ブドウでも果皮ごとの醸し
・酸化防止剤などは無添加
・仕上げの清澄や濾過はしない(ノン・コラージュ、ノン・フィルター)
とは言え、こうした“自然派・ナチュラルさ”のある製法も、絶対的なものではありません。
■ワインの醸造方法については、「ワインの造り方から見る、色合いと味わい~番外編・醸造工程を“もうちょっと詳しく”学ぼう!」を参照
また、“自然派・ナチュラルさ”の主なポイントが原料となるブドウの栽培にあるのが、オーガニック、有機、ビオ(BIO)、無農薬といったワイン。オーガニック、有機、ビオは基本的には同じで、殺虫剤、害菌防止剤、除草剤などの農薬や化学肥料を使用しない農法で栽培されたブドウで造られたワインに用いられ、EUやその他の国などには、それぞれ専門の認証機関があり、規定も設けられています。
※Agriculture Biologiqueの認証マーク:フランス政府の厳しい基準をクリアした食品にのみ記載が許される
そのほかに、無農薬ではなく、減農薬(リュット・レゾネ)というものもあり、また、オーガニック(有機、ビオ)でさらに月の満ち欠けなどの天体の動きに影響されるといった思想を取り入れた農法、ビオディナミ(バイオダイナミクス)も、ナチュラルなワインの重要なキーワードです。
フランスでは、ヴァン・ナチュールに新たな動き!
定義が曖昧な自然派ワインですが、フランスでは2020年3月に「Vin Methode Nature」という認証制度が誕生。自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)の生産者組合「Syndicat de défense des vin naturel」の取り組みによって、フランスにある国立原産地名称研究所(INAO)と競争・消費・不正抑止総局(DGCCRF)が新しい規定とロゴを認定しました。
ただし、認定された生産者は、50軒程度(2020年4月時点)。ビオディナミの認定取得者で、酸化防止剤の亜硫酸(瓶詰め時に30mgまで)の使用以外はいかなる添加物もNGなど、厳しい規定があります。とは言え、そもそも“我が道をゆくアウトロー”が多い、ヴァン・ナチュールの世界…今後どれだけ浸透していくか要注目です。
自然派ワインはクサい!?
自然の力に極力委ねながら良質なワインを安定的に造ることは、簡単なことではありません。人為的なものを排除することに注力するあまり、醸造所の環境が汚染されたり、醸造上の欠陥が生じたりすることも。その結果、ワインに馬小屋臭やネズミ臭と表現される不快臭が出ることがあります。
そうした不快臭を自然派ワインの特徴と勘違いして「これこそ自然派!このクサいのがいいんだよ」なんて言うマニアが稀にいますが、これは明らかに間違っています。
化学肥料や添加物をすべて絶対悪と考えるのも極端な話で、テロワールや造り手の考えによって執るべき最善策が変わってきて当然です。また、あえて“ナチュラル感”のある言葉を謳っていなくても、自然な造りのワインは世の中にたくさんあります。むしろ、自然な造りじゃないワインの方が、イマドキは少数派と言えるかもしれません。
自然派ワインを理解するためには、適切なアドバイスをくれる店で飲むことも大事。おいしく学んで楽しめる、おすすめの5軒を次に紹介しましょう。
【apéro wine bar aoyama】気軽に楽しむ、フランスのヴァン・ナチュール
photo:店舗写真
「apéro wine bar aoyama」は、外苑前駅から歩いて6分ほど。フランスのアペリティフスタイルがテーマで、料理は、スタッフが目利きをした国内外の食材を使い、フランスの家庭料理をベースに仕上げたものばかり。随所にセンスが光る一軒です。
店内にはガラス張りのワインセラーもあり、「私たちが厳選したフランス産のナチュラルワイン、ビオディナミワイン、オーガニックワインを、ぜひともご堪能ください」との言葉通り、多種多様な自然派ワインが楽しめます。
“ビッグボス”こと、店主のギヨーム・デュペリエさんがいれば、ぜひカウンター席へ。日本語も得意なので、ヴァン・ナチュール初心者にも、やさしく丁寧に教えてくれるはずです。
【pipal】自然派ワイン好きが集う、大人の遊び場ビストロ
photo:店舗写真
自家製パン&ワインが楽しめる店5選でも登場するこの奥渋谷の店で提供するワインは、すべてヴァン・ナチュール(自然派ワイン)。ワインを農作物だと捉え、テロワールを大切に考え、体にやさしくおいしいワインを普段使いで気軽に楽しめるようにと、ソムリエが探し続けてセレクトしています。
グラスワインも豊富で、利きワインセットの用意もあるそう。そんな自然派にこだわりがあるここは、パン以外にも自家製に注力していて、料理のソースに使うフォン(出汁)、ベーコン、ソーセージ、パイ生地にいたるまでが自家製です。
安心できる有機野菜を使った手づくりの料理は、家庭的なフレンチをベースに、和の技法も織り交ぜたもの。「おいしいフレンチとワインで楽しむ、大人の遊び場ビストロ」を謳う、宇田川町の一軒です。
【SOYA】BIOにとことんこだわってみたい方は必訪!
photo:店舗写真
こちらも自家製パン&ワインが楽しめる店5選で登場する一軒。昭和レトロな雰囲気の建物を改装したというこの店は、東銀座からも新富町からも近い場所にありながら、表通りから少し外れていることもあって、とても落ち着いた雰囲気。銀座コリドー街から移転してきたという、ナチュラルイタリアンです。
「科学的なアプローチをせず、自然な造りのワインと産地と季節を感じる食材を使用した、カジュアルなイタリア料理屋」と謳うここは、自然派ラヴァーにはたまらない店と言えるでしょう。
ワインは世界中の自然派の生産者のワインが豊富に揃っていますが、ワインリストはなし。好みを伝えるとベストなものを選んで提案してくれます。グラスで楽しめるものも多数あり!生産者やインポーターとのコラボイベントも時々開催しているので、ワインの造り手のことも尋ねてみると、いろいろ教えてくれるに違いありません。
【CANTERA】全粒粉ピッツァ&ナチュラルワインを堪能
photo:店舗写真
原宿の神宮前交差点から渋谷に向かう途中にある「Q plaza HARAJUKU」の9Fにあるこのピッツェリアは、エリア随一の眺望を誇る「空中テラス席」もある快適な空間。
店内フロアには、活気漂う厨房とナポリから直輸入された大きな薪釜もあり、北海道産小麦「春よ恋」を使用した全粒粉ピッツァと自然派ワインが堪能できます。
ワインは、ソムリエ厳選のナチュラルワイン。酸化防止剤や化学肥料を抑え、ブドウの生命力に問いかけながら醸されたワインが並びます。栄養価が高い「窯焼きオーガニックピッツァ」を食べながら、じんわりと体に滲み入るようなワインを…ボトルはもちろん、グラスワインも多く取り揃えています。
【代官山食堂 Q’z】圧巻のラインナップとともに、ソムリエに学ぶ
photo:店舗写真
代官山駅から徒歩5分。専用階段で2階に上がると広がる、ちょっとおしゃれな大人の食堂です。店名に“食堂”とついていますが、特に力を入れているのが「ジビエ」。鹿、猪、カンガルー、熊など、季節に関係なくその時々で最適なものを仕入れ、グリルやハンバーグ、またイタリアンベースの料理で楽しむことができます。
そんなジビエ料理に合う自然派ワインは、常時グラス10種、ボトル100種以上。難しく考えることなくシンプルに「おいしい!」と感じるワインを世界各国から集めているとのこと。また、ワインは窒素を入れる特殊な機械も活用して管理しているので、お客様になるべく良い状態のワインを提供することにも注力しています。
店の奥にはゆったりとした個室があり、そこではシェフがこだわり抜いたジビエをメインとしたコース料理と自然派ワインを楽しめるそうで、1日2組限定。予約制の特別な空間で自然派ワインを堪能することもできます。