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「ウンチクよりも感覚を大切に」WINE@トップソムリエ櫻井一都の魅力に迫る

誰だって“おいしいワイン”を飲みたい。でも、“おいしいワイン”って何?

「スペインワインは多様で、ストライクゾーンも広い」と語るのは、WINE@の人気コンテンツ【WINE SELECTORS(ワインセレクターズ)】のトップソムリエの一人、櫻井一都さん。

「ウンチクはあまり好きじゃない」という櫻井さん。感覚を大切にするスペインワインの第一人者の仕事やワインへの想い、その人柄に迫るべく、じっくりお話を伺いました。

好みのソムリエを見つけてワインを選ぶ「WINE SELECTORS」

ワインの知識に長けている有名ソムリエやシェフ(WINE SELECTORS)が、季節や様々なシチュエーションに合うおすすめのワインを紹介。ソムリエやシェフの普段は見えないプロフィール(出身、休日の過ごし方、好みの料理など)も分かるので、自分好みのワインを選ぶ強い味方になってくれます。
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「人と同じことはしない」から始まったスペインワインへの道

編集部

今でこそ日本ではスペインワインが広く親しまれていますが、昔はそんなことありませんでした。なぜスペインワインの世界を志したのですか?

櫻井一都さん(以下、敬称略)

よく訊かれます。実は、元々はバーテンダーでハードリカーが専門でした。その頃ずっと、「ワインと日本酒はやりたくないなぁ」と思っていました。ウンチクを語ったりすることが、あまり好きではないので(笑)

編集部

それがどうして、ワインの世界に?

櫻井

バーテンダーとして働く中で壁にぶつかりました。「ずっと自分はバーテンダーとしてやっていくべきなのか…」どうしても、その自問から抜け出せなかった。その壁を乗り越えるために、それまで敬遠していたワインを勉強してみようと思ったわけです。

編集部

スペインワインとの出合いは?

櫻井

多くの方と同じように、初めはフランスワインから入り、ブルゴーニュやボルドーを追いかけるわけです。でもふと周りを見渡すと、みんな同じことをやっている。「つまらないな」と思いました。そもそも、他人と同じことをするのが好きじゃないんです。そんな時に、スペインワインとめぐり合いました。

編集部

みんながフランスを志向するから、あえてスペインをということですか?(笑)

櫻井

今でもモットーは、「仕事にも遊びを取り入れる」「人と同じことはしない」ということなんですが、学生時代からそうだった気がします。

私は茨城の出身で、中学、高校とサッカーをやっていました。茨城選抜まで行ったんですが、全然練習しない選手だった(笑)。もちろん、全くしないわけではありませんが、ありきたりの練習を押しつけられるのが大嫌いで、遊びを加えたような独自の練習を、勝手にやっていました。

「当たって砕けろ」で開拓したスペインワインの魅力

編集部

仕事としてスペインワインの世界に入ったきっかけは?

櫻井

スペインレストランから、声がかかったのです。そこで色々と知るようになり、「スペインワインの多様性が面白いなぁ」と思いました。

品種も、産地も、造りも、なんだか皆、好きなことをやっている。それでいて、品種を知り、深く探求していくと、それが結局テロワールに繋がっていたりする。とても興味を惹かれました。

編集部

まだインターネットやSNSも普及していない頃、ましてや当時の日本ではメジャーな存在ではなかったスペインワインのことをどのように学ばれたのですか?

櫻井

フランスワインと違って、教本や参考書などもありませんでしたからね。仕方がないので、現地のソムリエや生産者に直談判して、直に教えを受けに行ったりしました。「当たって砕けろ」というやつです(笑)

感性が瞬時に導きだすバランス感覚

編集部

ワインを選ぶ時に、櫻井さんが大切にしていることは何ですか?

櫻井

「感覚」です。瞬間の、パッとした閃きも大切にしています。

あと、野球の“ストライクゾーン”みたいな感覚もありますね。ストライクの枠内には、ど真ん中もあれば、外角高め、低めなど、様々なものがある。ワインも似ていて、ストライクの枠内で、その時々の、自分の感性を大切にして選べばいいじゃないかと思うんです。

編集部

その日の気分に合わせて、というような感覚でしょうか?

櫻井

それもありますし、ワインと料理を合わせる時にも“ストライクゾーン”みたいな感覚は大事かなと思います。その中で、最も意識するのは「トータルでのバランス」ですね。

例えば「料理の甘味に、ワインの酸で補うように合わせる」とか「ワインと料理の色を合わせる」などと言いますが、自分は、料理1品にワイン1本を合わせるのではなく、メニューのトータルに、雰囲気の合うワインを合わせるスタイルです。そういう合わせ方をする際に、スペインワインは最適だと思うんです。

スペインワインにも色々なものがありますが、全般的には、酸が穏やかで、果実味があり、味わいはまろやか。料理に縛られないワインであるということも、スペインワインの醍醐味かな、と。

編集部

なるほど。感性の芯には、多様性の中から紡がれたバランス感覚がある。だから、櫻井さんの選ぶワインを飲むと、心がホッと落ち着くのかもしれませんね。

櫻井

そういう気持ちでワインを楽しんでいただけたら、最高ですね。

「感覚の天才」の休日は、パフェ、ヘヴィメタル、アイドル!?

編集部

家では普段どんなワインを飲まれますか?

櫻井

スパークリングワインが好きなので、よく飲みますね。あと、家飲みワインは、妻が近所のワインショップで選んで買ってくるものを飲むのが、櫻井家のルール(笑)。それが絶妙なチョイスで、なかなか面白いんですよ。

編集部

いいですね。ちなみに、お休みの日はどのように過ごされているのですか?

櫻井

休みの日はチョコレートパフェ…

編集部

えっ?パフェですか?

櫻井

休日には必ず食べる「週に一度のお楽しみ」ですよ。フルーツパフェよりチョコレートパフェ派で、モダンなものよりはクラシックなタイプが好きです。

編集部

なるほど。クラシックタイプ、わかります。パフェの他に、何か趣味はあるのでしょうか?

櫻井

緊急事態宣言下で家を出られなかった時期は、筋トレとトランペットの練習ばかりしていました。そもそも音楽はヘヴィメタルが好きで、学生時代にコピーバンドをやっていて、ベースとギターを担当していました。

今でも80年代のヘヴィメタルが特に好きで、2019年に解散してしまったアメリカの「SLAYER(スレイヤー)」の大ファン。コロナ禍以前は、“メタル好き”を集めて、プロジェクターを使い、カウンターで上映会を開催したり…。あと、紅白にも出場した「BABY METAL」も好きで、2019年は4回もライブに行きました。

編集部

コロナ禍の影響で、ライブやコンサートはまだまだ以前と同じようには行かれないですよね。

櫻井

そんな中でも楽しみはあるものです。去年は朝の情報番組で特集していた「NiziU」にすっかりハマり、家族全員でファンになりました。ファンクラブも立ち上げ時から入会。ちなみに、私はリマちゃん推しです(笑)

櫻井一都(さくらい・かずと)
東京都品川区大井町にあるワインバー「ロスビノス」のオーナーソムリエ。2007年、スペインワインコンテスト2007にての優勝経験を持ち、スペインワインを中心とした、ワインセミナー、ワイン選定、ワインリストの作成などのコンサルティングでも活躍。

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■櫻井一都さんがセレクトするおすすめワイン&詳しいプロフィールは こちら

 

旅好きシニアソムリエが語る! 知られざる中国ワイン事情【後編】

近年、海外メディアでも多く取り上げられている中国ワイン。日本のワイン専門誌やWebサイトでも取り上げられるようになりました。

基本的な、中国のワイン造りの歴史や産地などは世界が注目!【中国ワイン】の知っておくべき歴史と産地をご覧いただくとして、今回は、もう一歩深い、中国のワイン事情をお届けします。

渡航歴12回を数える大の中国好き、加えてBELT&ROAD WINE AND SPIRIT COMPETITION(中国のワイン及びスピリッツの国際的なコンクール)の審査員も務めるワインのプロ、林やよいさんにたっぷりとお話を伺いました。

<後編>は注目する産地から国内需要拡大のカギまでご紹介します。

■旅好きシニアソムリエが語る!知られざる中国ワイン事情<前編>は こちら

ワイン産地の確立から発展までの過程が見られる面白さ

―中国ワインに関する情報は、まだまだ日本のWebサイトには多くありませんが、その中でも、押さえておくべき産地の筆頭で上がってくるのは山東(サントウ)省の煙台(エンタイ)というのが多いような気がします。林さんが注目する産地はどこですか? やはり寧夏(ネイカ)でしょうか?

林やよいさん(以下、敬称略)
うーん…いろいろあると思いますが、
確かに寧夏は、高級ワインの産地として確立され、成熟していって、どう世界に認められていくのか、その過程が見られる、というのが面白いし、注目していきたい産地ではあります

雲南(ウンナン)は、歴史もあるし、環境もいいですね。超高級ワインを造るのに向いている産地ではあるけれど、ブドウ畑にできる土地が少ないので、地理的条件を考えるとこれ以上畑が広がる可能性は少ないかなと。

―やはり、雲南は山岳地帯なんでしょうか?


めちゃめちゃ山岳地帯!東チベットと呼ばれ、標高3,000mを軽く超える地域です。伝説の理想郷「シャングリ・ラ」があり、バックパッカーの聖地でもあります(笑)。そこにブドウ畑を拡大するのはちょっと難しいし、いろいろ生産コストもかかる。あと山岳地帯は物流にもコストがかかります。

―まさに、秘境中の秘境って感じですね。それはそれで、高級ワインの良いブランディングにもなりそう(笑)

寧夏が注目産地であるワケ

photo:寧夏のブドウ畑。遠くに見えるのが賀蘭山。


その点、寧夏が優れている点は、平地が多いところ。山麓に、あれだけ広い平地が広がる産地は、世界を見ても他にない

【POINT】
賀蘭山という、“山”と呼ぶけれど、どちらかというと“山脈”が南北に走り、その距離はコートドールの北部からマコンぐらいの距離とか。東側の麓に「中国のナパ・ヴァレー」とも呼ばれるブドウ畑が広がっている。その東側には平野が広がり、さらに東側には黄河が流れている。賀蘭山西側はゴビ砂漠。


寧夏回族自治区は、その名の通り、回族(イスラム教徒)が多く住んでいる地域です。
彼らは、お酒は造れないので、ブドウ栽培を担っています。長年栽培をされてきて“ベテランさん”も多くなり、ワイナリーの人たちも「彼らに任せておけば安心」と言っています。うまく分業ができている感じですね。

さらに寧夏省は、中国で唯一省単位のワイン協会が設立されており、ボルドーのように生産者に対する格付けも行われています。この格付けも厳格に、すべてのワイナリーが5級からスタートして、2年ごとに見直しを行っています。これも、寧夏ワインのブランディングの一環です。

中国の国内需要を増やすキーポイントは?

―中国のワイン生産量が世界第7位と知った時は驚きました。広大な土地とブドウ栽培に適した自然環境、労働力の豊富さ、あと、ワイン業参入規制において、法人企業では年間1,000kl、シャトーワイナリーでも年間75klの生産能力がないと参入できない(ちなみに日本では年間6kl、ワイン特区では2kl)、というのが要因として考えられそうですね。


世界1位になれるポテンシャルはあるでしょう。ただ、低価格帯のワインをたくさん造るのか、高級ワインをメインで造っていくのか、今後の方針次第かと思いますが。

あと、国内需要の拡大をどうするかですね。最近徐々に増えてきているようではありますが、女性はお酒を飲む習慣があまりない。さらに、想像以上に健康志向が高い国民性。…そういうこともあって、(ポリフェノールの健康効果で)白ワインよりも赤ワイン好きが多いのかもしれません。

―さすが!漢方の国ですね(笑)


もう「血液サラサラ」というワードも大好き(笑)。内モンゴル自治区のワイナリーが造る“玉ねぎワイン”なるものがあって、これが意外と人気で、よく売れてるみたいですよ。試飲させてもらいましたが、玉ねぎ、というよりはエシャロットの香りがある赤ワインでした(笑)

中国ワインの輸出が伸びているワケ


林 やよい
JSA認定シニアソムリエ、WSET Level3、CPA認定チーズプロフェッショナル。ワインテイスター・審査員として国内外のワイン審査会や雑誌のテイスティング企画などに招聘され、参加多数。旅をライフワークとし、特に最近はアジア各地を中心に、バックパッカーしている。夢は、中国から陸路でワイン畑を訪ねながらのユーラシア大陸横断。他のソムリエがあまり行かないワイン産地への訪問を得意とする。

―国内需要の拡大の鍵は、「女性の飲酒」と「健康志向」がポイントになりそうですね。ところで、輸出に関してはどうなんでしょう?


中国ワインの輸出量が多いのは、世界中に華僑や華人がいるから、というのが一番の要因だと思います。チャイナタウンがある国には、特に多く輸出していますね。ただ、まだ国内に大きな市場があるので、国内向けの方をより意識して生産している産地も多いです。

今までは、白酒などアルコール度数の高いお酒を飲む世代が、飲酒のメイン世代でしたが、彼らよりも若い世代が飲むものは、どんどん低アルコール化している感じです。ワインを造っていない地域には、ブルワリーが結構あったり、今後、醸造酒をはじめ、ライトなお酒はさらに伸びそうな感じです。

中国ワインは高価?

―MADE IN CHINAって安価なイメージがありますが、ワインに関してはそうでもない印象です。


ワイン
生産者は、造ったワインを販売する際、多額の税金を国に納めなければいけない、というのが一番大きな理由かと思います。また、ブドウ栽培やワイン醸造に携わる賃金も、ちゃんと最低賃金が決まっていたはずです。

彼らは、ちゃんとしたものを造りたいという意識が非常に高い。彼らの、決まったことを真面目に黙々とやれる国民性が、それを可能にしますし、そこに対して人的コストを抑えて低価格のワインを造っても意味がない。彼らにとってワイン造りは産業であり、雇用創出と所得獲得を通して、地方の経済発展が目的でもあるので。

―なるほど。中国だけではないのかもしれませんが、ワイン産業は奥が深いですね。しかし中国は、これからさらに大きく発展する可能性がある分、注目していきたい産地ですね。今回は貴重なお話をありがとうございました。

今後、ますます目が離せない中国ワイン

今回は、中国ワインを通して、飲み物としてのワインだけではなく、ワイン造りの“産業”という視点でも大きな気付きを得ることができました。

近年の中国の経済発展はすさまじいものがありますが、その中の一つにワイン産業もあることを、今回改めて感じました。可能性を秘めた広大な土地、十分な労働人口という、資源の豊富さがそのバックグラウンドにあることは間違いありません。

加えて、国家にしっかりと管理された産業計画は、今まで産業の乏しかった内陸地域の、希望にもなっているように感じました。先述した寧夏の生産者格付けは、ワインツーリズムを行うことが必須項目になっているそうです。ワイン産業と観光産業で、地域を盛り上げようとしているのです。

サステナブルでフェアトレードも意識しながら、これからも、中国を始め、世界中のおいしいワインを楽しみたいと思います。機会があれば、“玉ねぎワイン”もぜひ試してみたいですね(笑)

■旅好きシニアソムリエが語る!知られざる中国ワイン事情<前編>は こちら

■基本的な中国のワイン造りの歴史や産地などについて知りたい方は、世界が注目!【中国ワイン】の知っておくべき歴史と産地 をご覧ください。

 

旅好きシニアソムリエが語る! 知られざる中国ワイン事情【前編】

近年、海外メディアでも多く取り上げられている中国ワイン。日本のワイン専門誌やWebサイトでも取り上げられるようになりました。

基本的な、中国のワイン造りの歴史や産地などは世界が注目!【中国ワイン】の知っておくべき歴史と産地をご覧いただくとして、今回は、もう一歩深い、中国のワイン事情をお届けします。

渡航歴12回を数える大の中国好き、加えてBELT&ROAD WINE AND SPIRIT COMPETITION(中国のワイン及びスピリッツの国際的なコンクール)の審査員も務めるワインのプロ、林やよいさんにたっぷりとお話を伺いました。

<前編>は、特殊な中国のブドウ畑から注目のブドウ品種までをご紹介します。

■旅好きシニアソムリエが語る!知られざる中国ワイン事情<後編>は こちら

林 やよい
JSA認定シニアソムリエ、WSET Level3、CPA認定チーズプロフェッショナル。ワインテイスター・審査員として国内外のワイン審査会や雑誌のテイスティング企画などに招聘され、参加多数。旅をライフワークとし、特に最近はアジア各地を中心に、バックパッカーしている。夢は、中国から陸路でワイン畑を訪ねながらのユーラシア大陸横断。他のソムリエがあまり行かないワイン産地への訪問を得意とする。

ブドウの樹が凍る!?

ー中国は、世界規模で見ても恵まれた環境のブドウ栽培産地ですね。

林 やよいさん(以下、敬称略)
あれだけの広い国土なので、どこかしらに恵まれた土地がある、というのが中国の特権ですね。海沿いの暑いところから、内陸の気温の低い所、標高の高い所、低い所、適地を探せれば彼らは何でもやれてしまう。働き手が多いのも、それを可能にする一つの要因です。

―内陸の、冬がとても寒い地域は、ブドウの樹を土に埋めるとか。


一番寒いモンゴル辺りで-40℃まで下がります。新疆(シンキョウ)や寧夏(ネイカ)など、ブドウ産地でも-20℃とかになるので、この気温の中にブドウ樹をさらしておくと、樹が凍ってダメになってしまいます。

【POINT】
ブドウはつる性落葉低木なので、秋には紅葉し、冬になると葉が落ちて丸裸になってしまいますが、そんな姿でも当然生きていて、樹の内部には水が流れています。それが凍ってしまうと枯死してしまいます。

冬の寒さからブドウ樹を守る方法とは?

―冬眠している熊も、寝てはいるけど心臓は動いていて血液は流れているのと同じ状態、ですね。でも、どうやって土に埋めるのですか?


中国のブドウ畑も、ヨーロッパと同じように垣根仕立てがほとんどですが、(ブドウの樹は支柱とワイヤーで支えられているので)ワイヤーから枝を取り外し、幹の部分を倒して、土を被せます。朝顔の支柱を外した状態をイメージしてみてください。蔓が床に垂れ下がってしまいますよね。それと同じで、自立できなくなった幹や蔓を地面に沿わせて土を被せる感じですね。

毎年折り曲げて土を被せるので、幹が柔らかい若めの樹でないと難しく、通常よりも樹に負担はかかるので、高樹齢の樹にはなりにくいそうです。


photo:昔ながらの方法で支柱やワイヤーを使わずに育てられるブドウ樹(新彊ウイグル自治区にて)


ちなみに、エリアによっては(日本でもよく見かけるような)棚仕立てのブドウ樹もありますが、それも土に埋めるそうですよ。埋める期間は10月から3月ぐらい。収穫が終わってからすぐ、土を被せていく感じですね。

【POINT】
降雪量が多い地域では、ワイヤーから外して樹を地面に寝かせて越冬します。雪の重さで樹が折れてしまうのを防ぐためだけではなく、積もった雪の中に埋もれていた方が、最低気温が-3℃までしか下がらないからです。日本では空知地方がこのように越冬します。

ただ、降雪量が少ない地域で-20℃前後の気温になる地域では、“雪のお布団”がないので“土のお布団”をかぶせます。中国内陸だけでなく、北海道の内陸、十勝地方でも土を被せて越冬します。


そして、冬に樹を土に埋める産地の畑は、(うね=作物が植わっている列)よりも畦(あぜ=作物が植わっている列と列の間。人が通るところ)の方が一段高くなっています。これは、樹を掘り起こした後の土が畦に集まるのでこのような畑になっていて、埋めるときは畦の土を使用します。

世界中にブドウ畑とワイナリーを持つシャンドンがこのエリアに所有する畑も、同様に畦の方が高いので、この地域のブドウ栽培にとって合理的な畑の形と言っていいでしょう。

だから、アイスワインも造られる


これだけ冬が寒い地域なので、中国ではアイスワインも造られています。

―えっ!?アイスワインも!?確か、-7℃とか-8℃の中で収穫しなきゃいけないワインですよね?カナダ、ドイツ、オーストリアだけではなかったんですね。


そう、樹が凍ってしまうぐらい寒く、内陸性で気候が安定しているエリアもあるので、ドイツよりも氷結ブドウの生産確率は高いのではないでしょうか。

アイスワインの産地としては、シルクロードが省内の真ん中を走る甘粛(カンシュク)省のチベット高原近くのエリアや、北朝鮮の北側、国境にほど近い遼寧(リョウネイ)省桓仁満族(カンジンマンゾク)自治県などが有名です。

甘粛省ではリースリングを栽培し、遼寧省では、カナダのアイスワインで有名なヴィダルを栽培しています。黒ブドウからもアイスワインが造られることもあります。

中国は、ボルドーよりも適した産地!?

―品種と言えば、中国のブドウ産地全土でほぼ作られているのがカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランという、ボルドー主要3品種ですね。やはり中国人はボルドーワインが好きなんでしょうか?


好きというのもあるのかもしれませんが、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に適した産地が多いからではないでしょうか。カベルネ・ソーヴィニヨンは晩熟のため、ブドウの収穫時期に雨が降らないというのはとても大事。砂質土壌で水はけがいいのも適しています。

その点から見たら、収穫時期の9月に雨が降るボルドーよりも、中国の方がカベルネ・ソーヴィニヨンに適した産地と言えるかもしれません。ゆっくりと果実が熟し、タンニンも果実味もしっかり乗ったところで収穫できれば、カベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインも造れます。

それと、彼らは“産業”としてワイン造りを行っているので、消費者が求めるワイン(品種)を造る、というのは当然のスタンスですね。その意味からも、カベルネ・ソーヴィニヨンだけではなくメルローやカベルネ・フランを作っているのは、比較的早飲みできるワインを造ることによって、キャッシュフローをよくするため、でもあるのです。

中国で白ワインが好まれないワケ

―白ワインはあまり飲まないのですか?


ほとんど飲みませんね。各ワイナリーでも「一応、白ワインも造っていますよ」と紹介はしていますが、それほど力を入れていない感じです(笑)

もともと中国の人は、冷たい飲み物を飲む習慣が少ないのです。私がかつて旅行で訪れ、飲食店で「スプライト」を注文した時、冷えているのがいい?常温がいい?と聞かれて驚きました(笑)。だから、冷やして飲む白ワインは受け入れられにくいのでしょう。

しいて言えば、スパークリングワインは少しずつ浸透してきている感じです。もちろん、常温では飲みませんが(笑)

今や世界企業となっているシャンドンは、国内需要のあるものは国内で造る、という考え方があり、中国市場向けに寧夏でスパークリングワインを造っていますが、主力はドゥミ・セック。中国人の口に合い、中華料理にも合いやすい味わいを、ちゃんと調査して造っている感じです。

中国のアイコニック品種はなに?


photo: Marselan grape variety: Vbecart, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons

―スペインだとテンプラニーリョ、イタリアだとサンジョベーゼ、アルゼンチンだとマルベック、日本だと甲州といったように、今後、中国のアイコニック的になる品種だとどんなものがありますか?


マルスランでしょうね。世界でも注目され始めている品種で、南フランスなどでよく造られていますが、つい最近、ボルドーでも使用品種に認可されましたからね。温暖化の影響もあるのかと思いますが。

今年(2021年)、首都の北京市近郊の河北省がホストで、第1回マルスランコンテストを開催する予定となっています。コロナの影響でどうなるのかわかりませんが…でもそれくらい、栽培環境の適正から考えても、中国でも注目され始めている品種です。実際に優れたワインも多く、コンクールでも数々のワインが受賞しています。

【POINT】
マルスランは、カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュの交配から生まれた品種。2つの品種の“いいとこどり”をすることが目的で、遺伝子工学によりフランスの国立農業研究所(INRA)が作り、登録されたのは、1961年。比較的歴史の浅い品種です。

乾燥した土壌と、暑く日照量の多いテロワールを好み、この環境下でゆっくりと熟します。

小粒の果実からは、濃厚な色合いで、アロマが豊か、タンニンは滑らかなしっかりしたボディのワインが造られます。

ラングドックや南ローヌでは、すでにいくつかのAOCで10%以下の補助品種として使え、また多くのIGPでも使用できるとあって、栽培が盛ん。ボルドーでも補助品種として使用できるという決定が下されたのは2019年。今年(2021年)の春、植え付けが開始になり、注目を集めています。

ワインは、気候風土とその国の文化慣習が反映される

今回林さんのお話を伺って、やはりワインというのは、その土地の気候・風土に適したブドウ栽培を行って造られる飲み物だということを、改めて認識しました。

そして「冷たい飲み物は体を冷やすから良くない」という東洋医学の観点が食文化として根付いていて、それが白ワインの需要が低いという、ワインの嗜好にも反映されている点は、なるほど!という納得感があります。

ワインの面白さに改めて気付かせてくれた「中国ワイン事情」は、後編にも続きます。

■旅好きシニアソムリエが語る!知られざる中国ワイン事情<後編>は こちら

■基本的な中国のワイン造りの歴史や産地などについて知りたい方は、世界が注目!【中国ワイン】の知っておくべき歴史と産地 をご覧ください。

 

プロだからこそ「大好き」に立ち返る。WINE@トップソムリエ太田賢一の魅力に迫る

誰だって“おいしいワイン”を飲みたい。でも、“おいしいワイン”って何?

「一周まわって、“大好き”という感覚を大切にしたい」と語るのは、WINE@の人気コンテンツ【WINE SELECTORS(ワインセレクターズ)】のトップソムリエの一人、太田賢一さん。

ミシュラン二つ星のフレンチレストランのシェフソムリエとして活躍。ヨーロッパはもとより、ニューワールドのワイン産地にも造詣が深い太田賢一さんに、じっくりお話を伺いました。

好みのソムリエを見つけてワインを選ぶ「WINE SELECTORS」

ワインの知識に長けている有名ソムリエやシェフ(WINE SELECTORS)が、季節や様々なシチュエーションに合うおすすめのワインを紹介。ソムリエやシェフの普段は見えないプロフィール(出身、休日の過ごし方、好みの料理など)も分かるので、自分好みのワインを選ぶ強い味方になってくれます。
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ワイン選びに欠かせない「大好き」という感覚

編集部

太田さんは、様々なワインに詳しい筋金入りのプロフェッショナル…にもかかわらず…。

太田賢一さん(以下、敬称略)

よく「銀座のソムリエらしくないねぇ」とお客様から言われますね(笑)。私は19歳の時にこの世界に入ったんですが、初めはお客様の信頼を得ようと、いかに知識を蓄えて技術を高めるかということばかり考えていました。

でも、年を重ねるにしたがって、そうした気負いはなくなりました。今は、お客様にどれだけ寄り添えるか、いかに素敵な雰囲気でワインを楽しんでもらえるか、ということに主眼をおいています。

編集部

太田さんご自身の変化だけでなく、時代とともに求められるものも変化しているのでしょうか?

太田

“バッジのついたソムリエコートに革のエプロン”という格好で、お客様もワインのことをご存じという前提でサービスをするという旧来のスタイルを求められることは、確かに少なくなってきています。

ラベルをスマホにかざすだけで、ワインの基本情報がわかってしまう時代。そんな中で、今の私がワインをチョイスする際に大切にしているのが、「大好き」という気持ちです。一周まわって「大好き」という感覚を大切にしたいと思っています。

編集部

太田さんがチョイスするワインは、ご自身が大好きなワインばかり。本当に楽しそうにワインについて語られますよね。

「仕事は遊び、遊びは仕事」がモットー

編集部

太田さんは何かモットーのようなものはありますか?

太田

キャリアを積み、年齢を重ねるうちに思い至ったのは、公私混同を良しとするということ。だから、今のモットーは「仕事は遊び、遊びは仕事」です。

編集部

実際、完全なオフはなく、ものすごく多忙な日常ですよね?

太田

通常勤務に加え、ワインスクールの講師もしていますので、事実上、休日はありません。でもある時「そもそもこの仕事が大好きなんだから、それでもいいんだ」と気づいたんです。だから、趣味は仕事です(笑)

編集部

とは言え、何か仕事以外で趣味はあったりしますか?

太田

食べ歩きでしょうか?これも仕事に近いかな(笑)。エンゲル係数はかなり高いと思います。

編集部

フレンチやイタリアンがやはり多いのでしょうか?

太田

もちろんそういうところにも行きますが、実はラーメンが大好きで…。北海道出身なので、味噌とか濃厚な鶏白湯とか、濃い味のものが好みと思われがちですが、年齢を重ねて、今は淡麗系のスープに惹かれています。職場がある銀座エリアのラーメン店は、結構いろいろ行っていますよ。

あと、甘いものも食べますね。肉体的に疲労している時のビッグサイズのプッチンプリンは、まさに癒しです!(笑)

心が動くワインは、語らいを生む

編集部

ワイン選びでは、「大好き」という感覚を大切にされているとのことでしたが、そこにも何か基準はあるのでしょうか?

太田

基準と言えるか分かりませんが、「歴史、文化、人の背景があるワイン」に心が動きます。味わいや香りの良さは当然として、ワインにはさまざまな側面があります。ペアリングを考える時も、歴史や文化、造り手のフィロソフィーやその土地に生きる人びとの気性などを鑑みると、実はとても幅が広くなる。

編集部

その土地ではどんな料理に合わせているか、というような?

太田

単なる“産地合わせ”だけでなく、食べたい料理が浮かんでくるワインは、良いワインだと思います。あと、そのワインが育まれた情景が浮かんでくるようなワイン。海外に行きたくてもなかなか行けない今のような状況では、ワインで旅行気分を味わうことができるということも大事な要素ですから。

編集部

家でもそういうワインを召し上がっているのでしょうか?

太田

一人ではワインはあまり飲みません。ワインは“語らいたくなる飲み物”なので、やはり友人や仲間と飲みたいですね。こういう時期なので、なかなか難しいですが。

家ではもっぱらビールですよ。しかも、缶ビール。ガスをしっかり感じられるように、舌をちょっと凹ませて、缶からダイレクトに飲むのがこだわりです(笑)

編集部

炭酸の刺激を100%堪能するわけですね(笑)。ちなみに、語らいたくなるワインは、単体だけでなく、あれやこれやマリアージュを考えたりするのも楽しいですよね。

太田

グランメゾンのサービスで「この一皿!」という料理に合わせておすすめする場合は、ピンポイントですが、普段飲みや親しい仲間とワインを飲む時は、もっと自由な発想でペアリングを楽しんだ方がいいと思います。

BYOなどは、冒険的なペアリングが楽しめるよい機会ですよね。誰も発見したことのない意外なペアリングを見つけられるかもしれないですし、そういう席では「合わない」という発見も楽しい経験になるはず。ワインを楽しむ場に同席している仲間や家族を愛すること、それがとても大事ですよね。

ラストの「瞬間芸術」に関わるよろこび

編集部

最後に、太田さんがソムリエとして大切にしていることを教えてください。

太田

ペアリング一つとっても、知識やロジックで終始する時代ではなくなってきていると思います。造り手の多くは、先代の想いを引き継ぎ、育み、それを次代へと繋げながら、素晴らしいワインを生み出しています。

私たちソムリエは、その大きな流れの中にいて、お客様に、造り手の想いの橋渡しをしている。実はソムリエの仕事は、その最前線であり、最後の仕上げだと考えています。

開けて、飲むことでワインは完結する。“瞬間芸術”とも言える、そのワインの最後の1ページに関わる責任感は、常に忘れずにいようと心がけています。

太田賢一(おおた・けんいち)
ミシュラン二つ星フレンチレストランのシェフソムリエ。世界各国のワイン産地訪問多数。フランスワインはもちろん、ニューワールドにも幅広く深い造詣を持ち、銀座の高級中国料理の名店に在籍した経験もあるゆえに中国料理にも精通している。ワインスクールの講師や、ワイン専門誌等でも活躍。好きな言葉は「情熱は論理を凌駕する。」

■Myワイン評価基準
純粋に自分自身が「大好き」と言える
おいしさは当然として、歴史、文化、人の背景がある
飲みたいシチュエーションと食べたい料理が浮かんでくる

■太田賢一さんがセレクトするおすすめワイン&詳しいプロフィールは こちら

 

【ワインディレクター】ってどんな仕事? WINE@トップソムリエ田邉公一の魅力に迫る

誰だって“おいしいワイン”を飲みたい。でも、“おいしいワイン”って何?

「ワイン選びにはいろいろなポイントがありますが、一つ大事なのは“その場にあるべきワイン”ということではないでしょうか」と語るのは、WINE@の人気コンテンツ【WINE SELECTORS(ワインセレクターズ)】のトップソムリエの一人、田邉公一さん。

一店舗に所属するソムリエとして仕事をするのではなく、「ワインディレクター」という肩書きを持ち、ボーダレスに活躍する田邉さん。その仕事やワインへの想い、その人柄に迫るべく、じっくりお話を伺いました。

好みのソムリエを見つけてワインを選ぶ「WINE SELECTORS」

ワインの知識に長けている有名ソムリエやシェフ(WINE SELECTORS)が、季節や様々なシチュエーションに合うおすすめのワインを紹介。ソムリエやシェフの普段は見えないプロフィール(出身、休日の過ごし方、好みの料理など)も分かるので、自分好みのワインを選ぶ強い味方になってくれます。
■詳しくは こちら

「ワインディレクター」ってどんな仕事?

編集部

田邉さんは、ソムリエとしてだけでなく、多岐にわたる仕事をされていますね。また、日本酒の難関資格「SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL」を持つ一人でもいらっしゃる。「ワインディレクター」という仕事について、少し具体的に教えていただけますか。

田邉公一さん(以下、敬称略)

私の働き方は、業界の中ではちょっと特殊かもしれません。国内外のワイナリーや酒蔵を訪ね歩きながら、その知識や経験をもとに、複数のレストランやワイン関連会社のワインセレクションやスタッフ教育を行なっています。そのほかに、各種イベント監修やコメンテーター、プロモーション活動、ワインスクールの講師なども務めながら、飲料全体のクオリティアップに取り組んでいます。

ですから自分では、ワインの、あるいは飲料全体に関わる“ディレクター”だと思っています。

編集部

なるほど。提案したり指導したり、また全体の指揮を執る仕事だから、“ディレクター”というわけですね。

サービスのプロから、プロの中のプロへ

編集部

ワイン業界に入られたきっかけは、どのようなことだったのでしょうか?

田邉

私は山口県の出身なんですが、大学生の時に神戸のバーでアルバイトをしていたのが、まずお酒の仕事に携わるようになったきっかけです。卒業後、そのまま神戸に残り、老舗のフレンチ「北野クラブ」で働くことに。レストランですので、当然バーの知識だけではだめで、ワインのことがわからないと仕事にならない。サービスマンとしての前線に立つために、ワインの勉強をしました。

編集部

ソムリエとしての活躍の始まりですね。その後、東京でもいろいろな飲食店で経験を積まれて、今では「ワインディレクター」として多岐にわたる仕事をされていますが、それはどういった流れだったのでしょうか?

田邉

ソムリエと一口に言ってもいろいろな業務がありますが、自分はサービスそのものの技術を高めること以上に、料理とのペアリングを考えたワイン選びやそれを発信していくことが得意だなと感じるようになっていったんです。ワインスクールでの講師もそうですね。

一つひとつ取り組んでいるうちに、外部からの仕事の依頼も自然発生的に増えてきて。一つの店舗で働いていると、ワインの監修、バーアルコール、日本酒なども含めた飲料全てを含めた提案を外部で行なったり、世界の産地や造り手を訪ねたりすることは難しい。そんな流れで「ワインディレクター」として仕事をするようになりました。

編集部

いろいろなお仕事をされていますが、今もソムリエとしても現場に立たれていますよね。

田邉

はい。いわゆるワインコンサルタントの仕事をしているだけでは、実際に食事をしているお客様の息遣いというか、現場のことが見えてこなくなってしまいます。ワイン業界に貢献するためにも、今も現場に入る機会を作っています。それが、コンサルタントとしての自信にも繋がっているのかもしれません。

編集部

ワインセレクションから教育までいろいろ携わっていらっしゃいますが、その中でも一番得意としている仕事は何ですか?

田邉

ワインの造り手とお客様を繋げることでしょうか。生産者の素晴らしさを伝え、そのワインが本当に輝く料理を寄り添わせることこそ、私の仕事だと考えています。

「良いワイン」や「おいしいワイン」とは何か

編集部

ちょっと難しい質問をしてしまいますが、田邉さんにとって「良いワイン」もしくは「おいしいワイン」とは、どんなワインでしょうか?

田邉

そうですね。一つ定義するとしたら「その場にあるべきワイン」だと思います。ワインは飲むシチュエーションで随分と印象が変わります。飲み手は、レストランやビストロ、居酒屋だけでなく、自宅や野外でも楽しみますよね。

レストランならシェフの料理や想いがあり、またそのお店ならでは雰囲気や価格帯もある。当然、お客様の好みや状況もあります。飲み手のことも客観視しながら、そうしたさまざまな要素を考慮して、ワインをアジャストするわけです。

編集部

「その場にあるべきワイン」を選ぶポイントとして、料理とのマリアージュや生産地などいろいろあると思いますが、特に大事にされていることはなんでしょうか?

田邉

ワインを選ぶ時のアプローチは複数あった方が良いと思うので、総合的に判断しています。

ワインの骨格の強度、タンニンと酒質のバランス、色調、価格帯、味わいのボリュームなど、寄り添わせるポイントの数が多いほどワインと料理はマッチし、マリアージュの完成度は高くなります。

それには、自分の中に多くのワインをインプットしておかなければならない。だからワイン単体と向き合い、テイスティング技術を高めていくことも重要になります。私は、テロワール、つまりその産地の「らしさ」が出ていることを重要視しながら、価格も含めてバランスが取れているものを「良いワイン」と考えています。

ディレクションに大切なのは、人間力

編集部

総合的に判断できる力こそ、田邉さんの真骨頂と言えそうですね。田邉さんがワインの選定力を極めていかれる中で、日々努力されていることはありますか?

田邉

メンタリティーを鍛えること。食べ物や飲み物の味わいの感じ方というのは、そのときのその人の心理的な要素がとても大きく影響します。その心理的要素をうまくつかんでお客様に提案するには、勧める側である私も人間力を上げなくてはなりません。

編集部

人間力をあげるために具体的に努力していることはありますか?

田邉

読書です。ワイン関連だけでなく、ビジネス、マーケティング、ライティング、心理学書など、人との接し方の役に立ちそうなものは、手当たり次第読んでいます。今、一番興味があるのは、質の高い文章を書くための指南書で、10冊以上は読んでいますね。

理解してもらうための工夫はとても大事で、実際に私のワインスクールでの講義の展開も変わってきたと思います。ワインに親しむ多くのユーザーの力になるために、もっと情報発信能力を高めていこうと思っています。

編集部

ちなみに、プライベートで最近はまっていることはありますか?

田邉

あ、筋トレですかね(笑) 以前はソムリエとして体力が続かないこともあったのですが、今では腰痛や肩こりも解消。トレーニング方法はもちろん、プロテインや日々の食事も探求するようになって…。

編集部

ご自宅で料理をする機会も増えたとか?

田邉

そうですね。ペペロンチーノのようなシンプルなパスタ料理も、ちょっとしたことで変わるので面白いです。あと、焼鳥も自分で鶏肉を切って、串打ちして、グリルセットを使って焼いたり…。実際にやってみるとわかることが多い。ワインに通じるところもあるかもしれません。

 

田邉 公一(たなべ・こういち)
1977年山口県生まれ。学生時代にワインに目覚め、これまでに世界11ヵ国を旅してソムリエ修行を行ってきた。現在は、青山、代官山等の都内レストランのワインセレクトと監修を行う。ワインスクール講師歴13年。「ワイン、日本酒、さまざまな飲み物と料理のペアリング。毎日の食事を豊かにする」がテーマ。

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