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【マスター・オブ・ワイン】に学ぶ!カリフォルニアワインが主役のフードペアリング

2021.8.2

「マスター・オブ・ワイン」という称号を知っていますか?日本にも「J.S.A.ソムリエ」や「J.S.A.ソムリエ・エクセレンス」といった資格がありますが、こちらは世界最高峰かつ最難関とも言われるワインの資格です。

「マスター・オブ・ワイン」については、また後ほど詳しくご説明しますが、この世界最高峰の資格を持つ一人、ニコラス・パリスが、カリフォルニアワインと料理のペアリングをレクチャー!ワインの個性に合わせて作られた料理とともに紹介されたペアリングの極意をレポートします。

ワインの基礎知識はあり、普段からよく飲む人から「カリフォルニアワインはとにかくアルコールも果実味も濃いから…」という言葉を時折耳にしますが、それは基本を知っているがゆえに、ちょっと思考が凝り固まっているのかも…。ニコラスは「ボディしっかりのカリフォルニアワインも、合わせる料理でその印象は七変化しますからね」と語ります。

カリフォルニアワインが主役のフードペアリング。さて、どんな組み合わせが登場するのでしょうか。

「マスター・オブ・ワイン」って、どんな資格?

略称は「MW」。マスター・オブ・ワイン(MW)は、イギリスに拠点を置く「マスター・オブ・ワイン協会(IMF:Institute of Masters of Wine)」が認定する資格で、ワイン業界において最も名声のある称号とも言われています。

マスター・オブ・ワイン協会は60年以上の歴史を誇り、ワイン生産者、流通関係者、ソムリエ、ジャーナリストなど多岐にわたるワインのプロたちがこれまでにもMWに挑戦しており、現在その称号を持つ人は、世界でも340名のみ。この最難関資格に合格した日本人はたった2名で、“日本在住の日本人としては初”となる大橋健一さんが2015年にMWを取得した時は、日本のワイン業界でも大きなニュースとなりました。

100以上の銘柄を持つ大手で、MWとして手腕を揮うニコラス・パリス

ニコラス・パリスMWは、アメリカ在住。カリフォルニアを拠点として、100以上の幅広い銘柄のラインナップを有している家族経営ワイナリー「E.&J.ガロ ワイナリー」に現在、所属しています。

「E. & J. ガロ・ワイナリー」が所有する銘柄の多くは、日常的に親しまれるテーブルワインですが、この日用意されたのは、プレミアムな3ブランド。「William Hill Estate Winery(ウィリアム・ヒル・エステート・ワイナリー)」「Orin Swift(オリン・スウィフト)」「MacMurray Estate Vinyards(マクマレー・エステート・ヴィンヤーズ)」のワインでした。

写真にあるワインを、左から順にご紹介すると…

・Napa Valley Chardonnay 2016(ウィリアム・ヒル・エステート・ワイナリー)
・mannequin 2016(オリン・スウィフト )
・Russian River Pinot 2016(マクマレー・エステート・ヴィンヤーズ )
・Abstract 2017(オリン・スウィフト)
・Napa Valley Cabernet Sauvignon 2014(ウィリアム・ヒル・エステート・ワイナリー)
・Papillon 2016(オリン・スウィフト)

というラインナップ。これら1本ずつの香りと味わいを吟味し、特別に作られた料理と合わせていくフードペアリング。ニコラス・パリスMWとともに、その妙味を体験した中で、特に印象的だった3つの組み合わせを紹介します。

パワフルなRAP歌手のようなシャルドネと、磯の香味!?

ワインは、オリン・スウィフトのシャルドネ「mannequin 2016」。オリン・スウィフトは、その革新的アプローチと芸術的なラベルデザインが特徴的で、“ナパの新たな伝説”とも呼ばれる造り手です。

音楽好きの方なら知っているかもしれませんが、アメリカのラップシンガー、ニッキー・ミナージュの歌詞に「服は時代ともにどんどんと変化していっても、“マネキン(mannequin)”はそれをしっかりと受け止め、支えている存在…」といった意味の一節があり、普遍的な個性や魅力がこのワインの名の由来なのだそう。

ワイン単体でまず飲んでみると、熟した白桃やパイナップルなどの南国フルーツのアロマがガツンとくる。「果実味とともに、ナツメグやクローヴなどのスパイス、樽由来のバタースコッチなども感じると思います」と、ニコラスMW。アルコール15%で、まさにニッキー・ミナージュのようなパワフルなシャルドネですが、これが料理と合わせると表情を変えます。

料理は「アサリ・ムール貝・アワビのタブレ仕立て フロマージュブランとタラゴンの香り」。

アワビの肝を使ったソースがポイントで、しっかりとした磯の香味があります。「こんなにしっかりとした海のフレーバーに、フルボディのシャルドネが合うの?」と思いましたが、口に含むと不思議!ワインがまるでソースのような役割となって、“口内調味”が展開します。

クリーミーな口当たりのフロマージュブランとタラゴンのハーブ香も、アクセントに。重層的な山海の幸が渾然一体となって、厚みのあるおいしさが生まれていました。

“カリ・ピノ”が持つ香り、最後はソースで決める! 

次にご紹介したいのは、“カリ・ピノ(カリフォルニアのピノ・ノワール)”。マクマレー・エステート・ヴィンヤーズ「Russian River Pinot 2016」とのペアリングです。

マクマレー・エステート・ヴィンヤーズは、ピノ・ノワールに特化したソノマのプレミアムブランドの一つ。ロシアン・リヴァー・ヴァレーは、ソノマでも特に優れたピノの産地として有名ですが、このワインはロシアン・リヴァー・ヴァレーのピノ・ノワールが持つ涼しげなニュアンスより、ちょっとボリューム感あり。アルコール度数も14.5%でした。

このワインとのマリアージュを狙った料理は「鴨の冷製スモーク ドライフルーツ添え」。

「ピノ・ノワールといえば鴨」というのがフランスでも定番ですが、このボディ豊かな“カリ・ピノ”のために施された工夫には、「なるほど!」と思わず唸ってしまう面白いものがありました。

鴨はスモークすることで、このワインが持つアメリカンオーク樽由来の香ばしいアロマにまずは寄せていく。そして、ドライフルーツのマンゴーやイチジクを添えることで、果実感の濃さを合わせつつ、最後はソースで決める!というスゴ技。

鴨料理にはよくオレンジが使われますが、このソースにはオレンジのリキュール、コアントローを使用。赤ワインビネガーと合わせて煮詰めたソースは、この“カリ・ピノ”が持つ甘苦感と酸のニュアンスがバッチリ!このソースがまさに決め手となって、ワインとのマリアージュが生まれていました。

ほうじ茶のようなフレーバーが、口の中で作られた!?

3つめにご紹介したいのは、カリフォルニアの赤としては代表的な、カベルネ・ソーヴィニヨンとのペアリング。ワインは、ウィリアム・ヒル・エステート・ワイナリーの「Napa Valley Cabernet Sauvignon 2014」です。

ウィリアム・ヒル・エステート・ワイナリーは、典型的なナパのスタイルを保ちながら、個々の細分化されたテロワールを最大限に生かし、クラシックとモダンを持ち合わせたワイン造りが特長とのこと。

「Napa Valley Cabernet Sauvignon 2014」は、熟したカシス、シナモンやナツメグなどのスパイスの香りに、チョコレートなどの香ばしさがしっかりと感じられる一方で、ナパのカベルネにしては酸味があり、渋みはまろやかで比較的やさしい印象のワインでした。

ペアリングとして登場した料理は、「黒毛和牛 上クリ肉のロースト 黒トリュフ香るマディラのソース」。

カベルネのワイン&牛肉。これも“ピノ・ノワール&鴨”と同じく、定番の組み合わせではありますが、アロマ&フレーバーにしっかりと注目して作り出されたペアリングでした。

「クリ肉」というのは、牛の肩から前脚上部にかけての部位で、運動量が多いため脂肪が少なく、しっかりとした赤身で味が濃い。この肉のローストに、黒トリュフとマディラ酒のソース、そこにこのカベルネのワインが合わさると、うま味が倍増!どんどんとおいしさが膨らんでいく感じがしました。

さらに、ほうじ茶のような香りがフワーッと口の中で広がったのが、なんとも心地よく、不思議。「なんで焙煎したお茶のような香りを感じたのだろう?」と疑問に思い、ニコラス・パリスMWに尋ねると「マディラのソースが、焙煎した茶葉のニュアンスを持っていますからね。エレガントなこのカベルネがそれをさらに引き立てたのでしょう」との回答。

なるほど。もっと骨格のしっかりした“パワー系カベルネ”なら、この心地よさは味わえなかったのかと思うと、この香味もワインと料理のペアリングの為せる業だったのだと感動しました。

ワインと料理、それぞれのバランスを整える。

ニコラス・パリスMWによれば、最近はカリフォルニアワインにも、酸がキリッと効いていて、アルコール度数も低めで、じんわりとしたうま味を感じるワインが増えてきていますが、旧来のイメージ通りのパワフルなワインが、やはり現地ではメインとのこと。健康志向による食のライト化などのトレンドに敏感な一部の人を除き、人気なのはやはり、果実味やアルコールがしっかりとしたワインなのだそうです。

ボディのしっかりしたワインと一口に言っても、アロマ&フレーバーに注目すれば、実は多彩。それらの要素を紐解き、一つひとつの要素を再構築するような料理と合わせると、今回のように驚くようなマリアージュが生まれることがあります。

その要素が強くても弱くても、まず大事なのは、バランスを整えること。今回のような特別な料理でなくても、家飲みでもそれは生かせるはず!この視点さえあれば、ワインを主役とした食の楽しみは広がると思います。

ワインと料理のマリアージュの基本を知りたいという方は、【基本のキ】みんなが言う「マリアージュ」って何? ペアリングとどう違う? 3原則&定番も一挙紹介!もぜひお読みください。

 

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佐野 嘉彦
ニューヨーク発祥のレストラン評価ガイド『ZAGAT』日本版の編集マネージャー、ワインスクールでの講師、料理通信社での勤務、チーズに特化したWebマガジンの編集長を経て、現在「sembrar(センブラール)」を屋号とし、食を中心とした情報発信を行っている。JSA認定ワインエキスパート、NPO法人チーズプロフェッショナル協会幹事、Guilde Club Japon認定コンパニョン・ド・サントュギュゾン、フランスチーズ鑑評騎士(シュヴァリエ)。
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