前回までは、赤ワインを造る黒ブドウの品種のハナシをしてきました。
【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋み少なめの赤ワインを選ぶには
【自分好みのワインを知るための品種のハナシ】渋みの効いた赤ワインを選ぶには
今回は白ワインを造る白ブドウのハナシです。
赤ワインを選ぶときに一番ポイントになるのは「渋み」だと思いますが、白ワインには渋みはほとんどありません。代わりに一番大きな特徴が「酸」です。
「酸」は「酸味」と置き換えて解釈できます。渋みとはまた違った、口の中がキューっと引き締まるような味覚です。レモンを想像しただけで唾液がたまる、あの感覚。
日本人は酸味が苦手だとよく言われます。ある人は、「苦手」というより「酸を感じる感覚が鋭い」と言っていました。この感覚の鋭さは人によっても異なるところなので、酸の強弱でワイン選びができるような、品種のハナシをしたいと思います。
今回は、酸の強めな品種をご紹介。有名どころから、なじみは薄いかもしれないけど、この機会にぜひ覚えてほしい品種まで、7種類ご紹介します。
シャープな酸のあるワインを造る品種の代表①【ソーヴィニヨン・ブラン】
爽やかな初夏の青空のもと、視界一面の草原の中を元気に走る少女。新緑のフレッシュな香りと白いドレスが、彼女のピュアな心を表している。…そんなイメージを抱かせる品種がソーヴィニヨン・ブランです。
“夏に飲みたいワイン選手権”があったなら、間違いなく1位2位を争うワイン。レモンやライム、グレープフルーツと言った柑橘系の香りに、草原の草やハーブと言った青っぽい香りが混ざった、爽やかな芳香。飲み口はすっきりしていて、溌溂とした酸が心地良いワインです。
フレッシュで爽やかさが持ち味のワインを造る品種なので、熟成はさせない早飲みタイプのワインが多いですが、カリフォルニアなどでは樽熟成のお化粧を施した、リッチなワインもあります。
ソーヴィニヨン・ブランの原産地はフランスのボルドー。黒ブドウの世界的な代表品種とも言えるカベルネ・ソーヴィニヨンの“親”と言われています。
そんなボルドーでは、セミヨンという品種とブレンドしたワインが造られることが多く、草原を元気に走り回る少女と言うより、草原の中にある大木の木陰で、シロツメクサの花冠を作る少女、と言った印象のワイン。丸みのある爽やかさが楽しめます。
(シュヴェルニー城)
フランスのもう一つの有名産地は、フランスの内陸からボルドーの北部にある河口へと流れるロワール川流域の一帯。“フランスの庭”と呼ばれるくらい、森が広がり古城が立ち並ぶ、風光明媚な地域です。
ここでは他品種とはブレンドせずに、単一でワインが造られることが多いです。ボルドーよりも冷涼な地域になるので、グレープフルーツと言うよりはレモンやライムの香りが印象的で、酸もよりピチピチしています。
一方、ヨーロッパ以外でソーヴィニヨン・ブランの世界的名産地として名を馳せているのが、ニュージーランド。特に、マールボロ地区のワインは有名です。その香りは、気候の影響から、柑橘系と言うよりはパッションフルーツや洋梨のようで、ハーブのような青っぽい香りもより強く出ています。
ボルドーに強い影響を受け、ボルドー品種の栽培が盛んなチリも有名産地。チリ国内で栽培される白ブドウ品種のNo.1の生産量を誇ります。果実よりもハーブの香りの方が前面に出ているワインが多い印象です。
草やハーブと言った香りのあるソーヴィニヨン・ブラン。生野菜のサラダを始め、鮮魚との相性もバッチリです。
キムラ・セラーズ / マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン 2021
産地
ニュージーランド / マールボロ地方 / アワテレ・ヴァレー
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シャープな酸のあるワインを造る品種の代表②【リースリング】
ツンと澄ました高嶺の花。そつなく仕事をこなす“バリキャリ女子”。サバサバした性格で、時々辛辣な言葉も吐くけれど、意外と繊細な一面も。気を許した人の前では、デレっと甘えることもある。…そんなイメージを抱かせる品種がリースリングです。
リースリングから造られるワインは、甘口から辛口まで、味わいのバラエティがとても豊富。
辛口タイプは、切ったばかりのリンゴや洋梨、グアバの香りを持ち、レモンのような鋭い酸味が最大の特徴。
甘口タイプは、アップルパイや桃のコンポートといった、品よく甘さを凝縮させた香りがあり、口当たりは、爽やかな甘さに癒され、程よく味わいを引き締める酸の余韻が続きます。酸がなければただ甘ったるいだけのリキュールのようなお酒になってしまいます。酸がしっかりあるからこそ、甘口ワインを造ることができる、とも言えます。
また、「やや辛口」や「やや甘口」といったワインも造られますが、これは、甘さを残すことでリースリングが持つ酸を引き立てています。
(mosel)
世界のリースリングの約半数を造る産地がドイツ。フランスとの国境にもなっているライン川の上流が原産地とされていて、対岸のフランス・アルザス地方においても、ドイツ、特にモーゼルとラインガウにおいても、リースリングは高貴で重要な品種とされています。
ドイツとフランスのアルザス地方がリースリングの二大産地として有名ですが、近年メキメキと評価を上げている産地が、オーストラリアのクレア・ヴァレー。それほど冷涼な気候でもない地域ですが、標高の高さと昼夜の寒暖差のおかげで、世界トップクラスの品質のワインを生み出しています。
産地によっては、石油のようなオイル香やミネラルなど鉱物を連想させるタイプのものもあります。独特な芳香ですがこれもまたリースリングの一つの特徴でもあります。
シャープな酸のあるワインを造る品種の代表③【グリューナーヴェルトリーナー】
(hallstatt)
近年、日本でも人気が高まりつつある品種ですが、まだ「聞きなれない品種名だな」と思う方が多いかもしれません。オーストリアを代表するブドウ品種で、世界の生産量の7割近くをオーストリアで栽培しています。
日本でも人気になりつつある理由は、繊細な味わいの和食との相性が抜群だから。寿司屋などで度々見かけるようになりました。お塩でいただく天ぷらともベストマッチなワインです。
グリューナーヴェルトリーナーのワインの特徴は、何といっても酸の強さ。リースリングに匹敵する酸を感じますが、香りはより繊細で、小さな白い花やリンゴを思わせる香りに、白コショウを感じさせるスパイス感もあります。
自己主張は控えめだけど、すっと1本筋の通った芯があり、素材の風味を活かした繊細なお料理に寄り添ってくれる。リースリングや甲州が好きな人は、きっとグリューナーヴェルトリーナーも気に入るでしょう。もしどこかで見かけたら、試す価値アリなワインです。
シャープな酸のあるワインを造る品種の代表④【アルバリーニョ】
こちらも近年、日本でじわじわ人気になりつつある品種です。スペインの北西部原産の品種で、主な産地もスペイン北西部のガリシア州やポルトガルの北部。いずれも大西洋に面した地域で主に栽培されています。
海風の影響を受けているからか、シャープな酸に加えて、なんとなく塩味を感じるワイン。ドライな印象を与える味わいですが、それに反して香りはジューシーな桃を連想させます。この華やかで芯のある風味から、スペインでは高貴な品種として扱われています。
日本で人気になりつつある理由は、グリューナーヴェルトリーナー同様、和食との相性の良さです。原産地スペインやポルトガルでもそうですが、魚介料理とともに食される、まさに「海のワイン」。
そして、実は日本でも栽培されている品種です。産地はやはり海のそば。新潟県の日本海に面した砂地エリアが、とくに有名な産地です。
シャープな酸のあるワインを造る品種の代表⑤【ミュスカデ】
ミュスカデも、もしかしたらなじみのない品種かもしれません。しかし、知っていて欲しい理由が2つあります。その1つが、日本でもよく食される“生カキ”との相性の良さ。
「とあるグルメ漫画のおかげ」と言われていますが、日本では「カキにはシャブリ」が定番ですね。でもフランスでは、シャブリよりもミュスカデの方がメジャーな組み合わせ。なぜならミュスカデは、カキの産地にほど近い、大西洋近くで造られているワインだからです。ソーヴィニヨン・ブランの項でもご紹介した、古城が立ち並ぶロワール川の河口付近がメイン産地です。
そして、シャブリに比べてリーズナブル!フランス人もカキは大好きで、牡蠣小屋のようなアウトドアで、飽きるまで食べ続けるには、気取った高価なワインは似合いません。そして、そんな風にカキを食べるのが一般的。
ミュスカデも酸味の強い品種です。柑橘系の香りとシンプルでニュートラルな味わいは、唸るぐらいに、レモンを搾った生カキと抜群の相性です。
知っていてほしい理由の2つ目は、次に紹介する日本固有品種「甲州」に近しい品種だからです。
ランドロン / ミュスカデ セーブル・エ・メーヌ シュール・リー レ・ウー 2018
産地
フランス / ロワール地方 / ペイ・ナンテ地区
品種
ムロン・ド・ブルゴーニュ(ミュスカデ)100%
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シャープな酸のあるワインを造る品種の代表⑥【甲州】
我らが日本代表の甲州。実はミュスカデと甲州は特徴のよく似た品種で、ソムリエ試験のテイスティング問題では、間違えやすい品種なんです。
甲州もまたニュートラルでシンプル、そして際立った酸があります。普通に造るとあまりにもシンプルなワインになるので(それはそれで、すっきりと飲めてお料理を選ばないワインとして優秀なんですが)、“シュール・リー”と言う製法で造られることが多々あります。
シュール・リーは、ミュスカデのワインを造るロワール地方の伝統的な製法です。アルコール発酵後すぐに澱引きせず、澱から、アミノ酸などの旨味成分を引き出す製法で、ミュスカデと、この甲州以外ではほとんど使われない。品種の特徴が似ているミュスカデと甲州だからこそ、の製法とも言えますね。
カキつながりで言うと、日本の生カキにはミュスカデもいいですが甲州が断然おすすめ!もちろん生カキ以外にも、和食との相性は言わずもがな、です。
ワインの酸は、必要不可欠の大事な要素
ブドウに含まれる酸(有機酸)は主に酒石酸、リンゴ酸、クエン酸。赤ワインを造る黒ブドウにもこれら3種の有機酸は含まれますが、白ブドウの方が含有量は多いです。
赤ワインはタンニンが、酒質の安定に大きく寄与することを【自分好みのワインを知るための品種のハナシ Vol.2】渋みの効いた赤ワインを選ぶにはでご紹介しましたが、白ワインにはタンニンがほとんどありません。白ワインの酒質を安定化させるのが有機酸になります。
一般的に有機酸は抗菌作用が高いと言われますが、ワインでも一緒です。その理由は、多くの細菌は低pH(高酸度)の中では生存できないからです。白ワインは赤ワインほど長期熟成には向きませんが、それでも10年ぐらい熟成できるものもあるのは、有機酸が豊富に含まれているからです。
いやいや、それより何より、透き通ったきれいな酸が効いているワインは、味わいとしてすっきりしていておいしい!飲み疲れない!フレッシュな野菜や魚介、シンプルにグリルした野菜や魚介など、素材の味を活かした料理と合わせやすい!夏には最高!
ワインは食中酒。ワインだけを味わうと「酸がきつくて苦手だな」と思っても、料理と合わせると、思わぬおいしさに出会うこともあります。そんな未知なる味わいを求めて、いろんなワインを試してみてください!