同じブドウ品種から造られたワインであっても、産地、造り手、ヴィンテージ(収穫年)、熟成、保存管理などによって、ワインの風味は大きく異なります。
でも、品種とそのブドウが造られた産地の特徴を知っておくと、どんな香りや味わいのワインなのかを判断する大まかな目安となり、自分好みのワインを選ぶ時にとても役に立ちます。
シリーズで展開している【テロワールでどう違う?主要産地別の品種ワインの特徴】。今回のテーマ品種は、カベルネ・フランです。まずは、品種自体が持つ主な特徴から確認していきましょう。
カベルネ・フランの主な特徴
「“カベルネ”と言えば、カベルネ・ソーヴィニヨン」という人が多いと思いますが、実は近年、ワイン愛好家の中でもメキメキと人気度が高まっているのが、このカベルネ・フランです。
カベルネ・フランのルーツと歴史
実は、カベルネ・フランは、黒ブドウの世界王者であるカベルネ・ソーヴィニヨンの交配親となるブドウ品種。さらに、メルローやカルメネールなどの交配親でもあります。
フランスではボルドー系品種の補助品種としてブレンドされることが多かったこともあり、長らくボルドー地方原産と考えられてきましたが、スペインにまたがるバスク地方がルーツなのではないかという説も有力です。
房も実も小さめで、晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンと比較すると早熟。栽培地はフランスが約7割ですが、涼しいエリアでも完熟できるとあって、世界各地に広がっています。
カベルネ・フラン 品種由来の風味
産地によって異なる風味については、後ほど詳しくご紹介しますが、品種由来の主な特徴としては以下のようなものが挙げられます。
香り ラズベリーやブルーベリーなどの果実、スミレの花、ピーマンなどの青い野菜
味わい やわらかな酸味、軽やかな渋み(タンニン)
ピーマンやシシトウなどをイメージさせる青い香りは、ソーヴィニヨン・ブランなどと同様に、メトキシピラジン(2-イソブチル-3-メトキシピラジン)という化合物に由来するもの。冷涼な気候の地域で作られたものや、未熟なうちに収穫されたブドウから醸されたワインに、よく現れるとされています。
それでは、カベルネ・フランの3つの主要産地別に主な特徴を紹介しましょう。
フランス:ボルドー地方
ボルドー地方の左岸エリアではカベルネ・ソーヴィニヨン、右岸エリアではメルローを主体にした赤ワインが多く造られていますが、その際にブレンド(アッサンブラージュ)される名脇役、バイプレイヤーとして活躍するのが、カベルネ・フラン。
ボルドー赤のエレガントで奥行きのある味わいには欠かせない品種です。
ボルドーにはカベルネ・フランがメインを張るワインもあります。右岸のサン・テミリオン地区では特に多く栽培され、その最たるワインが「シャトー・シュヴァル・ブラン」。メルローと同程度の割合でブレンドされ、長期熟成向き。ボルドーワイン愛好家にとっても垂涎のワインです。
フランス:ロワール地方
フランスではボルドーよりも栽培面積が広く、ロワール地方の黒ブドウ品種の中ではNo.1。「ブルトン(ブレトン)」「ブーシェ(ブーシー)」などの別名もあります。
ボルドーと異なり、ブレンドではなく単一で造られることが多いのが、ロワール地方の特徴。ロワール河中流にあるトゥーレーヌ地区で多く栽培されており、「AOCシノン」や「AOCブルグイユ」などの赤やロゼが代表的です。
比較的冷涼なエリアでも育つ品種という特徴を生かし、ロワール地方では軽やかな酸味で渋みはほどよく、デリケートでエレガントな味わいのワインが多く造られています。
イタリア中北部:トスカーナ地方など
北はトレンティーノ・アルト・アディジェ州、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州、ヴェネト州、そして中部のトスカーナ州で多く栽培され、カベルネ・フランを主体にした上質な赤ワインが各地で造られています。
温暖なトスカーナの畑では、ふくよかな果実味やタンニンを伴うカベルネ・フランが栽培可能。そんなカベルネ・フランの多様性に注目が集まっていて、カベルネ・ソーヴィニヨンからカベルネ・フランに植え替えている造り手も少なくないのだとか。
なかでも“イタリアワインの帝王”と呼ばれるピエモンテの生産者ガヤは、特筆すべき存在です。ボルドーのような国際品種のブレンドで造る濃醇な赤ワイン「スーパートスカーナ」で有名になった産地ボルゲリで、新たなスタイルを確立。エレガントなカベルネ・フランの個性を生かした赤ワイン「マガーリ」は、世界的にも高い評価を得ています。
オーストラリア、アメリカ、カナダ、南米、南アフリカ、そして日本でも注目!
やさしい酸味と渋みで比較的軽やかな印象を与えるカベルネ・フランのワインは、こってりとしたソースよりも、シンプルであっさりとした味付けの肉や魚、また野菜を多く使ったヘルシーな料理に合うワインとして、人気が高まっています。
こうした近年の食のトレンドと合致していること、またテロワールに応じて多様な顔を見せてくれる特徴から、他の国でも魅力的なカベルネ・フランのワインが多く造られています。
例えば、オーストラリア。ブルゴーニュのような冷涼なテロワールを持つと言われるヤラ・ヴァレーでは、“摘みたてのブルーベリー”を思わせるフレッシュでチャーミングなカベルネ・フランが造られています。
天然酵母を使い、ノンフィルターで仕上げ、シナモンなどのスパイスのアロマも。ピノ・ノワールが好きな方にもおすすめの1本をご紹介します。
また、広大なアメリカ大陸ではさらに多種多様。
カナダではアイスワインの原料としても多く栽培されていて、アメリカ・ニューヨーク州のフィンガーレイクスやロングアイランド、ヴァージニア州では、カベルネ・フランの単一のものやメルローとブレンドしたワインがメジャーです。
西海岸のカリフォルニアでは、地中海性気候のテロワールの中で凝縮感のあるカベルネ・フランが育まれ、果実味は豊かだけれどエレガントさは健在というワインが造られています。ボルドースタイルで造られるナパ・ヴァレーの最高級ワイン「オーパス・ワン」では、名バイプレーヤーとしての実力を遺憾なく発揮しています。
他にも、チリやアルゼンチンなどの南米、南アフリカ、ニュージーランドなどでも栽培されていて、日本でも山梨県や長野県を中心にカベルネ・フランにこだわったワイン造りに取り組む生産者が増えています。
ブドウは農作物。工業製品ではないので、育まれる土壌やその土地の気候などの影響をダイレクトに受け、毎回同じものが作られるわけではないので、当然ワインもその特徴を引き継ぎます。
様々な要素をすべて把握するのは一朝一夕にできることではありませんが、世界各国のカベルネ・フランを色々と飲み比べて、ぜひお気に入りの1本を見つけてみてください。